[ 湖の住人0102030405060708雑感 ]

湖の住人(要約之二)

 その後の数週間、私は国税局での仕事が忙しく、カートライトと連絡を取る暇がなかった。九月の三週目も終わる頃にやっと手が空いたので、私はハデスドンの自宅から車でエリザベス通りにある彼の元の家を訪ねた。そこではちょうど彼と彼の友人ジョン・バルガーが、彼の作品や家具等を車に積み込んでいるところだった。我々は数分の間立ち話をしたが、彼は向こうに足りなかった一つ二つの家具を取りに来たという事だった。そして、クリスマス頃には私も向こうを訪ねる事が出来るのではないか、自分も落ち着いたら手紙を書く、等という事を話した。

 さらに数週間、カートライトからの音沙汰は無かった。一度バルガーに道で出会った時に聞いた話では、カートライトは湖畔での生活をとても楽しんでおり、着いたその夜から作品の制作に入ったという事だった。

 結局家の購入から一ヶ月ほど経って、彼からの最初の手紙が届いた。一見何の変哲もないその手紙は、後から読み返してみるとその端々に、来るべき事態についての暗示が見て取れるものであった。

トーマス・カートライト
レイクサイド・テラス
ボールド通り郵便局気付け
ブリチェスター グロースターシャー
1960年10月3日

親愛なるアラン:

(住所に注意――郵便局員はここの周辺には来ないので、僕は毎週ボールド通りまで出かけて行って、局留めの郵便物を回収しているんだ)

ようやくここに落ち着く事が出来た。トイレが四階にある事がちょっと不便なのを除けば、とても快適だ。一日の生活は変化があったかも知れない――この場所が既に充分変わっているので、これ以上の変化は勘弁して欲しいが。僕の仕事場は以前と同じく二階にあるのだが、普段は一階で寝ている。テーブルを奥の部屋に引っ込める事にして、ジョーと一緒にベッドを湖に面した表の部屋に置いたんだ。

ジョーが帰った後、僕は辺りを散策してみた。他の家々を覗いてみたが――あんなさびれたほったて小屋の真ん中で、何か人目を引くものが見つかるとは思わないだろう? あれらに誰かが再び住むようになるとは僕には思えない。ここ数日のうちに一日を割いて、あの中に入って何か見つかるか見てみなくてはならない――おそらく、みんなが「幽霊」と言っているネズミとかだろうが。

けれども、この幽霊の出没に関してはちょっと気になる事がある。あの家族がこの周辺の超自然的な性質について気が付く最初のきっかけだったと言っていたのは、「何故他の家々はこんなに荒れ果てているのか?」という事ではなかっただろうか? この家並みが全てのものからあまりにも隔たっている、という事は確かによく言われている。だが、君も見た通り一軒残らずそうなっているんだ。確かにある時期には頻繁に人が住んでいた。なのに何故それが止んでしまったのか? この事については不動産屋に聞いてみないといけない。

家々の周りを一通り見終わったら、今度はもう一回り広い範囲を歩いてみたくなった。家の背後に木々の間へと通じる小径のようなものが見えたので、それをたどる事にした。こんな行為を進んで行おうとは二度と思わないね!――実際のところ、そこには太陽光が全然届いていなかったんだ。見渡す限り木々の列がずっと続いていて、もしもう少し奥へと入っていっていたら、確実に道に迷っているところだった。想像がつくかい――つまづきよろめきながらどんどん暗闇の奥へと入っていき、両側から迫ってくる木々の他には何も見えない……そして思ったんだ、かつてのここの住人の子どもがこんなところに入っていってしまったら!

僕の新しい作品はちょうど完成したところだ。ここの家並みが湖を前景にして描かれ、そして溺死した男の膨れた身体がその縁に浮かんでいる――「無情なる疫病」という題を考えている。バイヤー達が気に入ってくれる事を望むよ。

君の友トーマス

追伸:近頃悪夢にうなされるようになった。内容を思い出す事は全然出来ないのだが、いつも汗ばんで目が覚めている。

 これに対して私は取るに足らない返信を送ったのだが、ただ「君の前の住人に起きた出来事も、子どもが見た夢から始まったのを覚えているか。」という指摘だけはしていた。

 そしてカートライトから再び手紙が来た。10月10日付けのそれには、彼が手紙を受け取る事が出来るのは、ブリチェスターへ行く途中に家から4マイルも離れたボールド通りの郵便受けによる事が出来る月曜日と土曜日だけである(それ故手紙は日曜日か月曜日の朝に書かなくてはならない)という事、それとエリザベス通りのもとの仕事場に忘れてきてしまった数枚のスケッチを私かジョー・バルガーかに届けてもらいたいという事が書かれていた。

 仕事が再び忙しくなっていたので、私は水曜日の夕方にバルガーに会って、カートライトの依頼を引き受けてくれるよう頼んだ。バルガーは一応受諾してくれたが、彼はあの湖へと赴く事を出来るだけ避けたがっていた。はっきり指摘する事は出来ないのだが、あの密生した木々や黒い湖面から「何かが自分を見つめ、待ちかまえている」ような気がするのだという。そして「そもそも何故あんな遠く隔たった場所に家が建てられているのか? 一体誰が住むというのか?」という事を気にしていた。

 私はカートライトへの次の手紙でバルガーの疑問について言及しようと考えていたのだが、その次の日曜日に届いた10月16日付けのカートライトからの手紙には、彼がすでに「家が建てられた経緯とその荒廃の原因」について調査しようとしている事が書かれていた。そして次のような文が続いた。

ジョーは今日の午後に帰った――すまない、これはさっきも書いたな。話が途切れてしまった。だが本当に、僕はちょうどこれを書くのを中断していたんだ。外が何か騒がしかったように思ったのでね。もちろん気のせいに違いない。こんな時間(午後11時)に誰もこんなところに来られるわけがない――ジョーが帰ったのはだいたい7時頃だし――しかし断言できるんだが、数分の間遠くの方で誰かが叫んでいた。何かのエンジンのような、甲高い振動のようなものも。何か白いもの――そう、いくつかの白いもの――が湖の反対側を動いていたようにさえ思えた。もちろん遠くのものを見るにはあまりにも暗過ぎるのだが。確かにだいたい同じ頃、水飛沫の音がたくさん聞こえ始めた。そして僕がこれを書いているたった今消えたばかりだ。

 私は友人の孤独な内省を心配しながらも、クリスマス頃には訪ねていく事を木曜日に手紙に書いた。

前の頁へ / 次の頁へ

[ 湖の住人:0102030405060708雑感 ]

△Return to Top

▲Return to Index▲