[ 湖の住人0102030405060708雑感 ]

湖の住人(要約之四)

 あのような不健康な場所から友人を立ち退かせたかった私は、返信ではあえて彼の言う「湖に潜み棲むもの」について言及しなかった。そのかわりに、不動産屋にあの家の建てられたそもそもの目的について質問してみる事を勧めた。それによって何か平凡で退屈な事実が判明し、彼を惹きつけているあの場所の不吉な魅力が霧散してしまう事を望んでいたのだ。だが、10月30日付の彼からの手紙の内容は、私を驚かせるものだった。

 彼は金曜日にボールド通りに赴き、不動産屋に話を聞いていた。不動産屋は最初は用心深くて(せっかく売れた物件なのに、代金の返還を要求されたら困るからだろう)、あの家が「ある私的な集団」によって建てられたという事しか話さなかった。しかしカートライトが、自分が前の住人と同じように悪夢を見るという事を話した時、うっかり次のような事を喋ってしまったらしい。

「それじゃ、少し幸せになる人達がいるかも知れませんねぇ。」
「それはどういう意味だい?」何か謎めいたものを感じて、僕は訪ねた。彼は少しの間もごもごと確言を避けていたが、最後には説明してくれたよ。
「その夢は、湖に『潜み棲むもの』のせいだって、そういう話が田舎の人達の間に、マーシィヒルの郊外――貴方の住んでいる場所に一番近いところです――の人達の間に広まっているんですよ。何かが湖の中に棲んでいて、人々をそこにおびき寄せるために『悪夢を送り出している』という話が。その悪夢は恐ろしいものらしいですが、それでも何か催眠効果のようなものがあると言われています。あの湖の周りに誰も住まなくなってから、マーシィヒルの人達――特に子ども達――がそういう夢を見るようになって、一人か二人はマーシィヒル病院に入院してしまったそうです。まぁ、彼らが悪夢にうなされても不思議じゃないんですがね――マーシィヒルはもともと処刑場で、絞首台が並んでいた場所ですから。あの病院ももとは監獄だったし。誰か冗談の分かる者があそこを『マーシィヒル(慈悲深き丘)』と呼んで、それが定着したんです。あそこの人達は、夢は湖の中にいる何かの仕業だと言っています――そいつは飢えていて、獲物を捕らえるための網をさらに遠くまで投げているんだと。もちろん全て迷信ですよ――そいつが何だと彼らが考えているのかは、誰にも分かりません。とにかく、もしあなたが夢を見ているのであれば、彼らに言わせればもうこれ以上そいつが彼らを煩わせる必要が無くなったという事でしょうな。」

 続いてカートライトは、その「私的な集団」があの家を建てた理由と、何故それを隠そうとするのかについて追及している。

「あの家々は1790年頃に建てられ、そして修繕や建て増しが幾度か繰り返されました。あれらは6〜7人の人達からなる集団の注文によって建てられたんです。その人達は1860年か1870年頃に皆いなくなってしまいました。他の街かどこかへ行ってしまったんでしょうね――とにかく、あの周辺の住人達が彼らの消息を聞く事は二度とありませんでした。そして1880年かそこらになって、あの家々は再び物件として店に並ぶようになりました。その集団からは何も連絡が無かったので。しかし様々な理由で、長期にわたって住み続けた人は誰もいませんでした――分かりますよね、街から遠いとか。あの景色も、あなたはあれに惹かれてあそこに来たのだとしても、理由の一つですし。古くからあの周辺で働いている人達からは、あの場所はある種の人間の精神に悪影響を与えるという話まで聞きました。」

 そして不動産屋はその事に関して、カートライトの前にあの家に住んでいた家族について以前に言わなかった事がある、と話し始めた。

「あの住人がここに来たのは9時の事でした――私が店を開けた時に彼がいて、自分は夜半から車の中で店が開くのを待っていたと言うんです。彼は出て行く理由については何も触れずに、ただ鍵をカウンターの上に投げ出して、家をまた売りたいと話しました。私がその手続きをしている間、彼はぶつぶつと呟き続けていたんです。全部は聞き取れなかったんですが、聞いた限りでもかなり妙な内容でした。そのたわごとの多くは『棘』についてで、『おまえはおまえの意志を失いその一部となるのだ』とか――それから続けて『緑藻の間の都市』の事をたくさん。ある者が『緑色の崩壊』のために『日中は箱の中に閉じ籠もらなくてはならない』。そして誰かグラーキィとか何とか呼ばれる人について話し続けました――あと、トーマス・リーに関して何か、私には聞き取れませんでしたが。」
トーマス・リーという名前には何か聞き覚えがあったので、それをどこで聞いたのかまだ気が付かなかったけれど、僕は不動産屋にそう言ったんだ。
「リー? そりゃそうですよ。」彼は即座に答えたよ。
「トーマス・リーはあの家を建てた集団の指導者でしたから――その際の交渉は全て彼がやったんです。さぁ、話せる事はほとんど話しましたよ、本当に。」

 しかしカートライトはさらに、事実とは別に、湖の周辺に住む人々の間に伝わる伝説について話すよう言った。不動産屋はどうも仕事が暇だったらしく、次のような事を話している。

「そうですねぇ、彼らが言うには、あの湖は流星の衝突によって出来たそうです。今から数百年前、宇宙空間を大きな流星が飛んでいました。その上には都市があったのですが、そこに棲んでいた者は皆宇宙を行く間に死に絶えてしまいました。しかしその都市の中にはまだ生きていたものがいたのです――そのものは流星の表面からかなり深いところにあるその住処から、流星を何処かへ到着させようと操作しました。もしそれが本当なら、そんな落下と衝突に耐えるような都市を造っていた建材とは一体何だったのでしょうねぇ!」
「そのようにして出来たクレーターは数百年の間に水で満たされてしまいました。けれども彼らの話では、何人かの人間が、湖の中に何かがいるという事を知る手段を持っていたそうです。しかしその者達もその正確な落下地点までは分かりませんでした。そのような者達の中にあのトーマス・リーもいたのですが、彼は他の者があえて触れようとしなかったある手段を用いてその居所を発見したのです。そしてそこに何がいるのかという事を知ると、彼は他の仲間達を湖に集めました。彼らは皆ゴーツウッドからやって来ました――迷信深い人達は、彼らは崇拝するためにその街の背後にある丘の中からやって来たのだ、と言いますがね。私に理解できる限りでは、リーとその仲間達はその湖で彼らが期待していた以上のものに出会ったと考えられているようです。彼らは自分達が目覚めさせたものの下僕となり――人々が言うには、まだそこにいるそうです。」

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