[ 湖の住人0102030405060708雑感 ]

湖の住人(要約之五)

 カートライトは手紙の最後で、彼の創作の霊感を刺激するこの一連の話をとても喜んでいた。だがそもそもの目論見の外れた私は、短いぶっきらぼうな返信しか書かなかった。今になって私はその事を後悔している。何故なら、11月8日に届いた6日付けの手紙が彼からの最後の書簡になってしまったからである。

 その手紙の最初には、3週間ほど前に帰っていったきりジョー・バルガーから手紙が来ないという事が書かれていた。しかし手紙の本題は、それよりも重要な多くの事実が明らかになったという事の報告だった。

 カートライトは10月31日も午前3時頃まで絵を描いていたのだが、3時30分には切り上げてベッドに向かい、その日の午後5時まで目を覚まさなかった。彼の目を覚ましたのは、すでに再び暗くなった窓の外から聞こえてくる、その辺りでは珍しくかつ今まで聞いた事も無いような音だった。

かん高い、鼓動する騒音――その震動は早まり、音程は不協和音へと達するまで高まっていった。そして再び元の音程まで下がっていき、それを周期的に繰り返していた。窓からは何も見えなかったが、奇妙な事に僕にはその音は湖の中から聞こえてくるように思えた。窓からの光を反射して、湖面にはおかしなさざ波が立っていた。

 その翌日の午後3時頃、カートライトは以前から言い続けていたように、隣に立ち並ぶ家々を調査する事にした。まずはすぐ左隣の家から始める事にして、彼はそこに乗り込んでいった。家の中は以前覗き見たように荒れ放題だったのだが、そこの一室で彼は床板の隙間に挟まっていたぼろぼろの紙切れを見つけている。それは本の一ページで、手書きの文が途中から始まり別の文の途中で終わっていた。その内容は彼にとって非常に興味深いものであったらしく、手紙の中にそれを書き写している。

日没、そしてあれが下から昇ってくる。奴らは日中は出歩く事が出来ない――緑の崩壊が起きるからだが、その方がむしろ忌まわしい――しかし私も奴らに捕らえられないほど遠くへ行く事は出来ない。奴らはテンプヒルの地下に潜む「墓所に群れなすもの」に助力を求めて、道を湖へと折り帰らせる事も出来る。そんなものに巻き込まれるのは願い下げだ。普通の人間はここに来ても、おそらく夢引きを逃れる事が出来るだろう。だが道楽半分とはいえブリチェスター大学で禁断の知識を学んでしまった私は、抵抗を試みたところで少しも役に立たないように思われる。その時私はアルハズレッドのあの仄めかし、「七千の水晶の枠の迷路」「第五十次元の深淵より凝視せし貌共」の意味するところを解き明かした事を誇りにしていた。私の説明を理解したはずの結社の他の仲間達は、しかし誰一人として死者達がその口を大きく開き一呑みにしようとする三千三百三十三番目の枠を通り抜けられなかった。私だけがあそこを通り抜ける事が出来たのは、それだけ夢引きが私を強力に捕らえていたからだと思う。

だがこれが読まれているという事は、新しい住人の存在を意味している。あなたが恐ろしい危険の中心にいるという私の言葉をどうか信じて欲しい。あれがこの場所を離れるのに充分な力を得る前に、あなたは今すぐこの場所を去り、湖の事を皆に警告しなくてはならない。あなたがこの文を読んでいる頃、私は――死んではいない、が、むしろ死んでいた方がましだろう。私はあれの下僕の一人となっていて、あなたが充分綿密に探すならば、木々の間の私の潜む場所、そして私を見つけるかも知れない。けれども私はあなたにそうするよう助言はしない。明るい陽光の元では緑の崩壊が下僕達に起きるとはいえ、木々の間のほとんど暗闇に近い場所では日中と言えども奴らは出て来る事が出来る。

あなたは間違いなく何か証拠を求めるだろう。では、地下室の中に

 カートライトは文の最後の「地下室」が隣の家のそれを指しているに違いないと考え、今度はそこを調査してみる事にした。しかしすでに辺りは暗くなっていたので、懐中電灯も持っていない彼は調査を翌日に延期している。そしてその晩、彼は奇妙でとても生々しい夢を見ていた。

その中で、僕は自分の部屋のベッドの上で横になっていた。あたかも目を覚ましたばかりのようにね。そして窓の下から話し声が聞こえていた――奇妙な声だった。しわがれてしゅーしゅーと音を立てる、そして何か強制されたような――まるで話し手は苦痛に満ちて喋っているかのようだ。一人目の声が言った。「おそらく地下室の中だ。どちらにしろ、夢引きがより強まるまでそれらは必要では無いだろう。」もう一人の声がゆっくりと答えた。「彼の記憶はかすんできている。だが二人目の新しい者がその助けになるに違いない。」次のものは最初の声か答えた方の声か分からなかった。「夜明けが近い。しかし明日の夜には我々は降りて行かなくてはならない。」それから、重く慎重な足音が遠のいていくのを僕は聞いた。夢の中の事だからか、誰が窓の下で話していたのか見に行こうとしても出来なかった。そして数分の後、不快な眠りの中で夢は終わった。

 そして翌日の朝になって、カートライトは再び隣の家を訪れた。台所の中にある地下室への扉からは、庭に面した小窓からわずかに射し込む光の中、広い地下室へと降りていく一続きの石造りの階段が見えた。そしてその地下室には、求められるべき物は一つしかなかった。

蓋と前扉が開いたまま置かれていた、よくある小型の本箱だ。埃まみれの黄ばんだ書物がいっぱいに詰まっていて、持ち運びがしやすいように上部の端から端へと編み紐が渡されてハンドルの役目をしている。僕は本箱を持ち上げて、階上へと引き返した。だが、そこにはもう一つ他に奇妙に感じるものがあった。地下室の反対側の端にあるアーチ道だ。その向こうは急勾配の階段になっていた――けれども僕に見えた限りでは、その階段はへ向かっていたんだ。

前の頁へ / 次の頁へ

[ 湖の住人:0102030405060708雑感 ]

△Return to Top

▲Return to Index▲