AR-10の開発経緯

1950年代、米ロッキード・エアクラフト社で特許関係の職に就いていたジョージ・サリバンは、 彼のガレージ・ショップで、プラスチックと軽合金を使用したハイテク銃器の研究をしていた。 サリバンは資金を調達するため、航空機産業と接触を始め、1953年、 米フェアチャイルド・エンジン&エアプレーン社の社長のリチャード・ボーテールと出会った。 ボーテールは射撃やハンティングの長年の愛好家だったこともあり、サリバンの仕事に興味を持ち、 資金援助を買って出ることになった。

1954年10月1日、フェアチャイルド社の銃器部門として、 カリフォルニア州にアーマライト・ディビジョン,フェアチャイルド・エンジン&エアプレーン社が設立された。 同年、主任設計技師として招かれたのが、元海兵隊員のユージン・ストーナーだった。 アーマライト社の当初の目的は、航空機産業の技術を活かし、 軽くて高性能なスポーツ用銃器を開発・製造することだった。

アーマライト社では次々とライフルやショットガンが開発され、 1955年に開発された軍用ライフルがAR-10(*1)だった。 AR-10には、ストーナーがアーマライトに入社する前に、個人で出願した特許が使われていた。 それは、発射の際に火薬の燃焼で発生した高圧ガスの一部を、ボルトの中に直接導き、 ボルトを回転させてロックを解除するというアイデアだった。

AR-10自体は、アーマライト社が設立される前の1953年に、第2次世界大戦で米軍が使用した、 M1ガーランドと同一の.30-06口径で初期の設計が行われていたが、 ストーナーの手によって彼の特許を使用した構造に設計変更され、最も初期のAR-10プロトタイプが完成した。 しかし、米軍の次期制式ライフルの口径が.308口径になる可能性が高まった為、 ストーナーによって口径が.308に変更され、第2期のプロトタイプとなった。 こうして完成されたプロトタイプは、航空機グレードのアルミニウム合金とプラスチックが多用され、 従来の鉄と木で出来たライフルとは大きく異なる、斬新な物となった。

その後さらに改良されたAR-10Aが1955年末に完成した。 これは第2期のプロトタイプに、マズルフラッシュと強いリコイルを軽減する為のマズルサプレッサーを装着し、 軽量化の為に、銃身をチタニウム合金にアルミニウム合金を被せた二重構造とした物だった。 この斬新なライフルには軍も関心を示し、軍内部でテストされ、関係者の注目を集めたが、 その当時、スプリングフィールド造兵廠でM1ガーランドを.308口径に変更し、 セレクティブファイアーにした次期歩兵用ライフルの開発が進んでおり、 その最終プロトタイプT44E4の採用が濃厚となっていた。

しかし、軍関係者の一部は依然としてAR-10に興味を持っていた為、AR-10の改良は続けられた。 AR-10Aでは、ボルトと直結されたコッキングレバーが右側面に出ていて、撃つたびに前後動する欠点があった。 そこで、コッキングレバーをキャリングハンドル内に移し、 撃っても前進位置で停止するように改良が施された。 さらにフロントサイトベースをマズルサプレッサーの後ろに移す等の変更を加えて、AR-10Bは完成された。

1956年、AR-10Bは軍でテストされたが、銃身の強度に疑問が持たれていた。 同年、スプリングフィールド造兵廠で行われた耐久テストでは、 チタニウム・アルミニウムの二重構造の銃身が破裂する事故が起きた為、 銃身を一般的なスチールのみの物に変更したが、テストの機会は与えられなかった。 翌1957年5月、T44E4がM14として制式採用された為、AR-10の米軍への納入の可能性は無くなった。

AR-10の販路を西欧に求めたアーマライト社は、 オランダの航空機産業のフォッカー・エアクラフト・グループとライセンス生産の交渉をし、 フォッカー傘下のアーティラリエ・インリッチンゲン社で AR-10がライセンス生産されることになった。 量産されたAR-10は、ほとんどがアーティラリエ・インリッチンゲン社製だった。

.308口径の弾は強力で、ライフルからフルオートマチックで撃つと、銃口が激しく跳ね上がり、 あまり実用的ではない場合が多いが、AR-10はフルオートマチックでも銃口のコントロールが比較的容易で、 撃ちやすい。優れた面をもつ銃だが、ポルトガル(アフリカの植民地用)、スーダン、ニカラグア、ビルマ等、一部の国が少量採用したにとどまり、商業的には失敗作だった。

(*1) "AR"を、"ArmaLite Rifle"や"Automatic Rifle"の略だと思っている人も多いが、 これは間違い。AR-10は当初、"ArmaLite 10"と呼ばれていたが、これを縮めてAR-10と呼ぶようになった。


AI AR-10 トラディショナルモデル

オランダのアーティラリエ・インリッチンゲン社(Artillerie Inrichtingen、以降、AIと略す)で製造されたAR-10は、 メーカーの頭文字を冠して「AI AR-10」と呼ばれている。 AIがライセンスを得てAR-10の生産を開始したのが1957年、 ライセンス契約が打ち切られたのが1960年なので、 オランダでは3年の短い期間しか製造されていない。オランダでの生産数は1万丁以下で、 量産されたAR-10の殆どがオランダ製という点も考慮すると、 軍用銃としては生産数の少ない、かなりマイナーな銃であるといえる。

AIで最初に量産されたAR-10は、キューバン(またはスーダニアン)と呼ばれるモデルで、 その次の量産モデルがトラディショナルモデルである。この他にも様々なバリエーションが存在するが、 プロトタイプやトライアル、試作等でごく少量が作られただけで、量産されたのは、 第一世代のキューバン、第二世代のトラディショナルモデルの2種類のみである。 トラディショナルモデルの中にも、銃身を短縮したカービンモデルや、 バイポッドが付属するモデル等のバリエーションが存在する。

キューバンからトラディショナルモデルへの主な改良点は以下の通り。

テクニカルデータ
口径.308NATO(7.62mm×51)
全長1040mm
銃身長505mm
重量3750g
マガジン容量20発

AR-10の左側面の写真
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AR-10左側面。装着されているマガジンは20発容量。このモデルは、トラディショナルモデルの中の後期生産型で、オランダ製のAR-10としては最も後期に作られた物である。
AR-10の右側面の写真
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AR-10右側面。イジェクションポートのダストカバーを閉じた状態。
AR-10のハンドガードを外した状態の写真
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ハンドガードを取り外した状態。茶色のプラスチック部分は左右2分割で、 その内側のアルミ部分は上下2分割となっている。ハンドガードの根元の部分のリングがネジになっていて、 これを手で回すことで、ハンドガードの着脱は簡単に行える。プラスチック部分が木製のモデルも存在する。

AR-10Bまでは、ガスチューブは銃身の左側に位置していたが、AIで製造されたモデルでは銃身の上部に移されている。

AR-10のフロントサイトのクローズアップ写真
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フロントサイトのアップ。後のAR-15とは異なり、フロントサイトは固定式で調節機能は無い。 下に見えるダイアルはガスカットオフで、これを回すことでガスチューブに導かれるガスの量を3段階で調節可能。 ガスカットオフは、トラディショナルモデルの後期生産型のみに装備されている。
AR-10のリアサイトのクローズアップ写真
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リアサイトのアップ。下のダイアルを回すことで、エレベーション調節が可能だが、 ウィンデージ調節は工具が必要になる。フロントサイトが固定式なので、サイト調整は全てリアサイトで行う。
AR-10をテイクダウンした状態の写真
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テイクダウンした状態。レシーバーは上下2分割されており、前方のピボットピンと後方のテイクダウンピン の2本のピンで結合される。テイクダウンピンは指や弾の先で簡単に押し出すことができ、 テイクダウンに特別な工具を必要としない。
AR-10のレシーバー左側面の写真
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レシーバー左側面。セレクターは、SAFE、SEMI、AUTOの3ポジション。

レシーバー上部、キャリングハンドルの中に角のように突き出ているのが、コッキングレバー。これを後ろに引いて、初弾の装填とハンマーのコックを行う。アーマライト社製の初期のモデルでは、撃つたびにコッキングレバーが前後動したが、 AR-10B以降のモデル(写真のモデルも含む)では、撃っても前進したまま動かないように改良されている。

AR-10のレシーバー右側面の写真
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レシーバー右側面。ダストカバーを開いた状態。キャリングハンドルにはAR-15のように、 光学サイトを取り付けるための穴は無く、コッキングレバーが中にある関係で、光学サイトを装着するのは困難だ。
AR-10の前方部分の写真
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AR-10の前方部分。バレル上部に銃剣を装着する為のラグが付いている。着剣ラグが下側に付いている物もある。内径22mmのNATO標準ライフルグレネードを発射するためのランチャーチューブが付いている。
AR-10のストックの後部の写真
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ストックは茶色のプラスチック製で、発射の際に肩に伝わる衝撃を和らげるための、ゴム製プレートが取り付けられている。
AR-10とAR-15を並べた写真
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AR-10(上)とAR-15(下)の比較。太く無骨な感じのAR-10に対して、小口径化されたAR-15は、 全体的に細身で華奢な感じだ。

出典・参考文献:
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