MG42 (Maschinengewehr 42)

MG42は第2次大戦下のドイツで、MG34の後継機種として開発された汎用機関銃である。 汎用機関銃というのはその名の通り、用途が限定されておらず、 兵士が単体で使用すれば軽機関銃、三脚に載せれば重機関銃、 対空サイトを取り付け対空用三脚に載せれば対空機関銃、 戦車や装甲車に搭載すれば車載機関銃となり、汎用的に使用できる機関銃のことを指す。

MG34は前線の兵士から評価された汎用機関銃だったが、軍部及び用兵側から問題点や不満もいくつか提示されていた。 その内の主なものを以下に列挙する。

  1. 削り出しの部品が多用されており、高精度の加工組立が要求される設計の為、製造コストが高くついた。
  2. 過酷な戦場で使用するには造りが精巧すぎて、汚れ、泥、砂、雪等に弱く作動不良を起こす危険性があった。
  3. 銃身の交換作業は、レシーバーとバレルジャケットを結合するピンを軸にして、バレルジャケットか レシーバーのいずれかを半回転させ、銃を後ろに傾けて、バレルジャケットから銃身を後ろに落とすようにして取り出し、 銃身を取り付けるには、この逆の手順を踏むという、少々面倒な方式だった。
  4. 900発/分の高い連射速度を備えていたが、航空機は開戦後急速な進歩でスピードが向上しており、対空機関銃として使用する場合は、より高い連射速度が求められていた。
これらの問題点や不満を解消すべく、1942年2月に完成した汎用機関銃がMG42(マシーネン・ゲベアー42型)だった。

MG42の開発の詳しい経緯は分かっておらず、どのメーカーがどの部分の設計試作をどのように分担したのかはっきりしない。 MG42で使用されているプレス加工技術を開発したのは、ヨハネス・グロスフス社のグルノー博士であることは間違いないようだが、ロッキングシステムも含めた全体設計もヨハネス・グロスフス社が担当したとする説があれば、 全体設計はマウザー社が担当し、ロッキングシステムはラインメタル社が担当したとする説もある。 また、MG42の大きな特徴のひとつであるローラーロッキングシステムのアイデアも、 ドイツがポーランドに侵攻した1939年に、 接収した造兵廠で発見した機関銃のモックアップから得たものであると信じられてきたが、 陸軍兵器局の機関銃部門の技師がヨハネス・グロスフス社に協力して完成したとする説も出ている。

MG34の問題点を踏まえ、MG42で取り入れられた主な新機軸は以下の通り。

  1. 鋼板をプレス加工した部品を多用し、荒っぽい組み立てを許容する設計とし、コスト削減を図った。
  2. 泥や砂などの異物にも強く、高い連射速度にも対応でき、確実な作動が期待できるローラーロッキング方式を採用した。
  3. バレルジャケットの右側を大きく開けて、そこから銃身を簡単に交換できるようにした。
  4. 軽量化したボルト、強力なリコイルスプリングとバッファの採用で、連射速度を1,200発/分まで向上させた。
MG42は期待通りの性能を発揮し、前線の兵士からも信頼される機関銃となった。 しかし、ドイツ陸軍では戦線の拡大で慢性的な機関銃不足が続いているにもかかわらず、MG42の生産量が伸び悩んだ為、 MG34の生産も継続して行われた。MG34はMG42の量産開始後も、それまでと変わらないペースで終戦まで作り続けられており、 当初の目標のようにMG42がMG34に取って代わることは無く終戦を迎えることになった。 終戦までのMG42の総生産数は40万挺を超えていた。

MG42は戦時中からドイツの敵国にも優秀性を高く評価された機関銃で、 戦後の各国の機関銃の設計に多大な影響を与えている。 戦時中、米国は捕獲したMG42を本国に持ち帰り、 当時米国が制式としていた.30-06口径に改造を試みたが失敗に終わっている。 うまく行けば、ブローニング・オートマチック・ライフルに代わる機関銃として、 米軍が米国版MG42を配備した可能性があったが、 .30-06(7.62mm×63)の弾はドイツの7.92mm×57の弾より全長が長いこともあり、 口径変更には無理があったようである(製図上のミスが原因とする見方もある)。

戦後、再軍備された旧西ドイツではMG42が配備されたが、旧西ドイツのNATO加盟に伴い、 NATO制式の.308(7.62mm×51)の弾薬を使用しなければならなくなった為、MG42の口径を変更する必要に迫られた。 そこでラインメタル社がMG42を元に.308口径で再設計して、1959年に完成された機関銃がMG42/59で、 旧西ドイツ軍からMG1のテスト名が与えられた。その後、MG1に部分的な改良が施されたMG1A1、MG1A2、MG1A3が登場した。 大戦中のMG42は.308口径に改造されMG2のテスト名が与えられた。 トライアルの結果、旧西ドイツ軍制式となったのはMG1A3だった。 現在、ドイツ連邦軍が制式としているのはMG1A3を元に、 米軍及びNATO標準の分離式メタルリンクM13とドイツ独自の連結式メタルリンクDM1を両用できるように改良したMG3である。

MG3はドイツ国外でもライセンス生産されており、その国独自の改良型を作っている国もある。 戦後、MG3または改良型を採用した国として、ドイツ、オーストリア、イタリア、デンマーク、スペイン、ポルトガル、 ノルウェー、ギリシャ、トルコ、パキスタン、イラン、スーダン、チリ等が挙げられる。 また、旧ユーゴスラビアでは、大戦後ドイツから接収した機械を使ってMG42のコピーを生産して配備している。 MG3はMG42と比較すると、口径が異なる以外は構造、外観共に殆ど変わらないまま現在も使用されており、 60年前のMG42の設計が如何に優秀だったかを物語っている。

テクニカルデータ
口径7.92mm×57
全長1,230mm
銃身長530mm
重量11.6kg
連射速度1,200発/分

MG42の左側面
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MG42左側面。

MG34と似たシルエットを備えているが、 削り出し部品を多用した丸い断面のMG34に対して、MG42はプレス加工部品を多用した四角い断面で見分けは容易だ。

MG42の右側面
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MG42右側面。

非常に高い連射速度を持つ為、その発射音は一発ずつの音が繋がって、 布を引き裂いた時のような独特な音がする。 MG42は当時の米兵の間では、独特な発射音から「ヒットラーの電動丸ノコ」と呼ばれており、 圧倒的な火力と直ぐに判別できる発射音は連合国側に恐れられていた。

バイポッドを使用した状態のMG42
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バイポッド(二脚)を使用した状態。

ラフェッティ(三脚)等に取り付けずに使用する場合は、このようにバイポッドを使用してプローンポジションから撃つのが基本だ。 ヒップシューティングも不可能ではないが、連射速度が1,200発/分と非常に高い為かなり困難で、 トリガーを一引きする度に銃口が暴れ、射手は後ずさりしてしまう。

フロントサイトのクローズアップ
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フロントサイトのクローズアップ。使用しない時は破損防止のために、後方に倒しておくことが出来る。
リアサイトのクローズアップ
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リアサイトのクローズアップ。タンジェントタイプで、200〜2,000mの間でエレベーション調節可能だが、ウインデージ調節は出来ない。Vノッチ部分は、フロントサイトと同様に後方に倒すことが出来る。
対空リアサイトのクローズアップ
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対空リアサイトのクローズアップ。対空リアサイトを起こし、通常のリアサイトを倒した状態。

対空機関銃として使用する場合は、バレルジャケット上にクモの巣状の対空フロントサイトを取り付け、 さらに対空用三脚に載せる必要がある。対空リアサイトが最初から付属しないMG42も多い。

手前に「bpr」の刻印が見えるが、これは製造場所を表すオーディナンスコードで、 バレルジャケット部はヨハネス・グロスフス社で製造されたことを示している。

フラッシュハイダーを外した状態
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フラッシュハイダー(右上)は、バレルジャケット上部のラッチを持ち上げながら回すことで、 簡単に取り外すことが出来る。中には銃身をショートリコイルさせる働きを持つリコイルブースター(右下)が入っている。

フロントサイトは後方に倒した状態。

バイポッド
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MG42のバイポッドはバレルジャケットに固定されておらず、使用状態でも前後左右に大きく動くようになっている。写真のバイポッドは基部を見れば分かるが、前方にも大きく倒れるタイプだ。

バレルジャケットとの結合部のキャッチを押すことで着脱は簡単に可能。 また、バレルジャケットにはバイポッドを取り付ける箇所が前と後ろの2箇所にあり、 バイポッド使用時に対空射撃で高い仰角が必要な場合等、状況に応じて後方に付け替えることが出来る。

MG42のバイポッドは一種類ではなく、MG34用と同形の物、MG34用からの改造品、開脚度を調節できる物、 前後の可動範囲が異なる物等、何種類も存在する。

バレルジャケット左側面
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バレルジャケットの左側面。銃身の空冷の為の通気口が多数開けられている。 バイポッドの後ろには突起が付いており、使用しない時は畳んでバレルジャケットの通気口に引っ掛けるようになっている。
バレルジャケット右側面
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バレルジャケットの右側面。右側が大きく開いているのは、熱くなった銃身を交換する際に、 右側に銃身をスイングアウトする為だ。
レシーバー左側面
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レシーバー左側面。MG42はベルト給弾方式なので、左側面にメタルリンクで連結された弾薬が入るための口が開いている。グリップの両サイドはベークライト製だ。 グリップ上部のボタンはセーフティーで、左から押し込んだ状態で解除される。 MG34はセレクティブファイアーだったが、MG42はフルオートマチックのみになっている。

トリガーは無可動の加工の関係で、停止位置が可動状態の場合より前寄りになっている。

レシーバー右側面
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レシーバー右側面。T字型のハンドルはコッキングハンドルで、これを後ろに引いてボルトを後退させる。 側面に開いている穴はメタルリンクを排出するためのイジェクションポートだ。

ドイツ軍が使用していたメタルリンクDM1は、一発ずつ外れる分離式ではなく連結式なので、 撃つとメタルリンクが金魚のフンのように繋がったまま排出される。

初期のモデルではコッキングハンドルは板状のレバーで、レシーバー右側面から垂直に突き出している。

レシーバー底面のイジェクションポート
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フィードプレートの一部が外に出ているが、前後についている爪はMG34と共用のドラムマガジン(スプリングが入っていない弾薬ケースで、これをマガジンと呼ぶのは厳密には正しくない)を取り付ける際に使用する。写真のフィードプレートは、 後方の爪が大きく広がってしまっているので、ドラムマガジンを取り付けることが出来ない・・・。

空薬莢を排出するイジェクションポートは、レシーバー底面に設けられている。 ダストカバーは開いた状態で固定されている。

イジェクションポートが下にあるということは当然、空薬莢は下にはじき出されるわけだが、 第2次世界大戦を題材にした最近のゲームソフトでは、 空薬莢が右に飛び出す間違ったCGアニメーションを使用した作品が見受けられる。

銃身をスイングアウトする前
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バレルジャケットの後方右側面には、銃身交換の為のリリースキャッチが付いている。 ボルトを後退させた状態で、リリースキャッチを前に押しながら右に開くと、銃身が右側にスイングアウトされる。 熱くなった銃身を手でつかむには石綿製の手袋が必須になる。

このMG42は無可動なので銃身は固定されており、リリースキャッチをこれ以上開くことは出来ない。

フィードカバーを開いた状態
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フィードカバーを開いた状態。 フィードカバーは後部のキャッチを前に押しながら、上に持ち上げると開くことが出来る。 フィードカバーには弾を送る為の2対の爪が付いている。

フィードカバーの下には、1対のローラーが付いたボルトヘッドが見えている。 ボルトが閉鎖すると、ローラーが左右に広がってロックされるローラーロッキング方式が採用されている。 MG42のローラーロッキングは、銃身がショートリコイルすることによって、機械的にロックが解除されるフルロック方式である。

戦後のG3やMP5で採用されているハーフロック方式は、銃身内の圧力でボルトを押し戻そうとする力が一定のレベルを超えると、ローラーがボルト内に押し戻されてロックが解除される方式で、MG42のフルロック方式とは似て非なるものだ。

弾薬の装填は、コッキングハンドルを引いてボルトを後退させ、 フィードプレートの中央にメタルリンクで連結された先頭の弾を押き、 フィードアームとボルト上面のスタッドが噛み合うのを確認しながら、フィードカバーを閉じることで完了する。

取り外されたフィードカバー
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フィードカバー(上)とフィードプレート(下左)をレシーバーから取り外した状態。 ヒンジピン(下中央)を抜くだけで簡単に取り外すことが出来るが、 フィードプレートをレシーバーに対して直角の位置にしないとピンの抜き差しが出来ないようになっている。

フィードカバー内の湾曲した長い部品がフィードアームで、2対の爪と連動している。 このフィードアームの溝とボルト上面のスタッドが噛み合うことで、 ボルトが前進して弾をフィードプレート上から前に押し出した後、 フィードアームが横に振られて、外側の爪で次の弾がフィードプレートの中心に引き込まれるようになっている。

この給弾機構は大変優れており、戦後米国のM60で真似されている。

ストック
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ストックは木製で、魚の尾ひれのような特異な外観をしている。 バットプレートは無く、滑り止めの溝がストックに直接刻まれている。

初期に作られたストックはベークライト製だったが、資材不足に陥ったため、その後は多くのストックが木で作られている。

ストックを取り外した状態
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ストックは、レシーバー底面のラッチを押しながら右に90度回すとバッファと一緒に外すことが出来る。バッファは、ストックの下のラッチを押しながら45度回すとストックから外れる。リコイルスプリングは、無可動の加工で半分にカットされている。

レシーバーの刻印から、このMG42は1943年にマゲト社で製造された物であることが分かる。 この他にMG42を製造していた主なメーカーを下の表に示す。

メーカー所在地オーディナンスコード
マウザー・ベルケ社ベルリンar
オーベルンドルフbyf
マゲト社ベルリンcra
ヨハネス・グロスフス社ドーベンbpr
グストロフ社ズールdfb
シュタイア・ダイムラー・プッハ社シュタイア,オーストリアbnz


出典・参考文献:
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