MP40 (Maschinenpistole 40)

 MP40は第二次大戦下のドイツで、既に1938年に制式採用されていたMP38の改良型として、 1940年に制式採用された9mm×19のピストル弾を使用するサブマシンガンである。

 第一次大戦末期にドイツは、近接戦闘に適したサブマシンガンのMP18を投入し大きな効果を上げたが、 敗戦後のベルサイユ条約で軍隊のサブマシンガン配備や、サブマシンガンを含む各種兵器の国内での開発を禁止された。 その後は軍部が表立って指示をすることは無かったものの、兵器製造会社は各種兵器の開発拠点を国外に移したり、 規制を破って水面下で違法に開発を行っていた。

 ナチ党が政権の座に着いた後の1930年代中頃には、条約違反は公然と行われるようになった。 将来のブリッツクリーグ(Blitzkrieg:電撃戦)に備えるべく、 機械化部隊、空挺部隊用の小型軽量なサブマシンガンを求めたドイツ軍部は、 銃器製造各社に対し次期制式サブマシンガンの開発を指示した。

 1936年にドイツ陸軍が実施したトライアルには、各社が試作品のサブマシンガンを提出したが、 いずれの試作品も軍部が満足するものではなくトライアルは中止された。 しかし、1938年には間も無く戦争に突入するのは確実な情勢になったため、 次期制式サブマシンガンの選定は急務となり、再度トライアルが実施された。 提出された各社の試作品の中で、完全ではないものの最も優秀と判断されたのが、 エルマ社が前回のトライアルに提出したEMP36の改良型(正式な名称は不明)で、 同年8月に制式採用され、MP38(Maschinenpistole 38:マシーネンピストーレ38、短機関銃38年型)の制式名が与えられた。

 MP38は、銃器設計者のハインリッヒ・フォルマーが考案し、 1933年(1927年とする説もある)に特許として認められたユニークな三段伸縮式のリコイルユニットを採用している。 当時の他のサブマシンガンは、鋼材からの削り出し部品を多用し、木製ストックが使用され、 伝統的なライフルを短縮したような作りと外観の製品が殆どだったが、 MP38は木製部品を全く使用せず、折り畳み式のストックを標準装備した最初のサブマシンガンである。 グリップフレームにはアルミニウムの鋳造品を使い、 当時の最新の化学工業技術で生み出された破損しにくいプラスチック部品を使用する等、 従来のサブマシンガンに対する固定観念から脱却した革新的な銃だった。

 華々しく登場したMP38にも不満が無いわけではなかった。 レシーバー部分は肉厚の鋼管を軽量化するために機械加工し、 グリップフレーム部分はアルミニウム鋳造品を機械加工するという、 手間のかかる工法が使われていたため、生産性はあまり高くなかった。 しかも、グリップフレームの素材のアルミニウムは、ドイツでは産出しない上に航空機用として貴重で、 全体として製造コストのかかる銃だった。

 MP38は第二次大戦の口火を切った1939年9月のポーランド侵攻時から投入されたが、 コスト面での不満以外に実用面での不満も直ぐに露呈した。MP38に備わっていたセーフティーは、 後退して射撃準備が出来ているボルトが前進しないように、 コッキングハンドルを引っ掛けるためのレシーバー側の切り欠きのみだ。 ボルトが前進した状態で、銃の後を下にして落としたり、コッキングハンドルが何かに引っ掛かると、 ボルトが後退してスプリングに押し戻されて前進する際に弾が薬室に装填され、 そのまま暴発してしまう事故が相次いだ(この欠陥は、ドイツの他のサブマシンガンにも共通するもので、MP38に限ったものではない)。 応急対策として、コッキングハンドルを前進状態で固定するための皮製のベルトが作られ支給されたが、 根本的な対策ではないため、改良型の製造と配備が実行に移されることになった。

 MP38に加えられた主な改良点を以下に示す。

  1. グリップフレームは、素材が貴重で強度上の難点があったアルミニウムの鋳造をやめ、プレス加工した鋼板を溶接で組み立てる工法に改めた。 レシーバーは、鋼管を機械加工する工法をやめ、薄い鋼板をプレス加工する工法に改めた。 全体の機械加工箇所を大幅に減らし、調達が容易な素材を使用することでコストダウンを図った。
  2. コッキングハンドルを伸縮する二段式にし、前進した状態で押し込むと、レシーバー側の切り欠きに引っ掛かり、ボルトが後退しないようにするセーフティーを追加した。

 1.の改良を施されたモデルは、1940年に制式採用されMP40(Maschinenpistole 40:マシーネンピストーレ40、短機関銃40年型)の制式名称が与えられた。 その後、直ぐに2.の改良を施した通称MP40/Iと呼ばれるモデルが登場したが、 制式名称は変更されなかった。 既に戦地で使用されているMP38、MP40は順次回収され、MP40/Iと同じセーフティーを追加する改造が行われたが、 戦時下に全てのMP38、MP40を改造するのは不可能で、一部のMP38、MP40はそのまま終戦まで使い続けられた。 また、残ったMP38のレシーバーとMP40のグリップフレームを組み合わせたモデルも製造された。 MP38から改造されたり、MP38とMP40の部品を組み合わせたモデルは、 通称MP38/40と呼ばれている。

 MP38から改良が重ねられたMP40/Iにも不満が無いわけではなかった。特に東部戦線でソ連軍と対峙していた将兵の中には、 ソ連軍が使用するPPSh41サブマシンガンの堅牢な作りと信頼性の高さ、装弾数71発のドラムマガジンが魅力的に見え、 捕獲したPPSh41を戦闘で使用する者も珍しくなかった。敵の使用するサブマシンガンが71発もの装弾数を持つのに、 自軍のMP40が32発では心許無いとして、MP40の装弾数を増やす要望が出された。

 要望を受けてオーストリアのシュタイア社が開発し、 1943年末に制式採用されたのがMP40/1(通称MP40-II)で、 通常のマガジン2個を横に並べ、最初のマガジンが空になるとスライドして、次のマガジンが使用されるようにした物だった。 64発をほぼ途切れなく撃つことが出来たが、複雑な機構と大きく開いたマガジンハウジングのため作動不良が起きやすく、 弾薬込みの重量は約5.5kgに達したため、評価は芳しくなく少量が製造されただけで失敗に終わった。

 MP38、MP40は作られた時期や場所によって数多くのバリエーションが存在するが、大別すると以下の表の6種類となる。 尚、MP38、MP40の呼び方は混乱しており、MP38/40、MP40/I、MP40/II等の呼び方は、欧米のコレクターがバリエーションの違いを区別する為に付けた通称で、当時のドイツ軍部の正式な呼び方ではないようだ。

通称制式名称概要
MP38MP38シリーズのオリジナルモデル。MP40/Iの登場後は、多くのMP38がMP40/Iと同じセーフティーを追加する改造を施され、MP38/40となった。
MP38/40MP38 or MP40
どちらに分類されていたのか不明
MP38にMP40/I相当のセーフティーを組み込む改造を施したり、MP40のグリップフレームと在庫の残ったMP38のレシーバーを組み合わせたモデル。
MP40MP40MP40の初期モデル。アルミニウムの使用を止め、鋼板プレス加工部品を多用し、機械加工箇所を大幅に減らしコストを下げた。MP40/Iの登場後は、多くのMP40がMP40/Iと同じセーフティーを追加する改造を施された。
MP40/IMP40マガジンハウジング側面に強度を補うためのリブを入れ、ボルトを前進状態で停止させるセーフティーを追加する等した第一期改良型。このタイプが最も多く製造された。
MP40-IIMP40/1通常のボックスマガジン2個を横に並べ、2個分続けて撃てるようにしたモデル。ごく少量しか製造されなかった。資料によっては、このモデルをMP40/IIとしている。MP40/1の末尾は算用数字の"1"で、ローマ数字の"I"と混同しないように注意。
MP40/IIMP40伸縮式のリコイルユニットを廃止し、リコイルスプリングを強化した末期型。1,000発/分近くまで連射速度が高まった。MP40-IIと混同しないように注意。

 MP38とMP40は、MP18やMP28の設計で内外に名を知られていたヒューゴ・シュマイサーの名を冠して 「シュマイサーMP38」、「シュマイサーMP40」等と呼ばれてきたが、 シュマイサーはMP38の開発やMP40への改良には関与しておらず、この呼び方は間違いである。 但し、MP40のバレル、レシーバー、ボルト、リコイルシステムとMP28/IIの木製ストックを組み合わせた発展型のMP41には、 シュマイサーが関わっている。

 MP38の一部がC.G.ハーネル社でも製造されていたため、 英軍の情報機関がC.G.ハーネル社の支配人だったシュマイサーが設計したものと早合点してしまい、 情報部発行文書に「シュマイサーMP38」と記載したのが間違いの始まりで、 米軍情報機関の文書でもこの間違った呼び方が使用され定着してしまった。 その後に書かれた権威ある資料にも「シュマイサーMP38、MP40」と紹介され、 今日でもその間違った呼び方が使い続けられている。

 MP40は、1940年から1945年までの間に約100万丁が製造された。MP40を製造していた主なメーカーを以下の表に示す。

メーカー所在地オーディナンス
コード
エルマ社
ERMA: Erfurter Maschinenfabrik B. Geipel GmbH
エルフルト
Erfurt
〜1941 27
1941〜 ayf
シュタイア・ダイムラー・プッハ社
Steyr-Daimler-Puch AG
シュタイア,オーストリア
Steyr, Austria
〜1941 660
1941〜 bnz
C.G.ハーネル社
C.G. Haenel, Waffen- u. Fahrradfabrik
ズール
Suhl
fxo

テクニカルデータ
口径9mm×19
全長833mm (ストックを伸ばした状態)
630mm (ストックを畳んだ状態)
銃身長251mm
重量4,025g
マガジン容量32発
連射速度約500発/分

MP40の左側面、フォールディング(折り畳み式)ストックを伸ばした状態
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MP40の左側面。フォールディング(折り畳み式)ストックを伸ばした状態。

このMP40は、第一期改良型で通称「MP40/I」と呼ばれている。 近接戦闘にてフルオート射撃で敵を征圧するのがサブマシンガンの主な用法であるため、 セミオートは省かれてフルオートのみとなっている。これには構造を単純化して作動の信頼性を高め、コストを下げる狙いもあった。

MP40は前方が重い銃で、これは射撃の際にはマズルの跳ね上がりが少なくて好都合だが、 マガジンの着脱の際に、ピストルグリップを握った右手だけで銃を保持するのは困難である。 ストックを脇に挟むか、スリングを付けて首から提げると、マガジンの着脱は力まず容易に行うことが出来る。

MP40の右側面
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MP40の右側面。

MP40はバレルジャケットやフォアグリップを持たないので、射撃時はマガジンまたはマガジンハウジングをフォアグリップ代わりに使用する。グリップフレーム下部を持っても良いが、その場合は、ボルトと共に激しく往復するコッキングハンドルが指に当たらないように注意しなくてはならない。

MP40の左側面、フォールディングストックを畳んだ状態
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MP40の左側面。フォールディングストックを畳んだ状態。

携帯時にかさばらないように、ストックをグリップフレーム下部に折り畳むことが出来る。 この状態からでも射撃可能だが、反動を押さえ込むのが難しくなるので、緊急時以外は推奨されていない。

フロントサイトのクローズアップ
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フロントサイトのクローズアップ。

ブレード型サイトの周りをリング状のガードが取り囲んでいる。 ウインデージ調整は特殊な工具が必要で、フィールドでの調整は想定されていない。

リアサイトのクローズアップ
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リアサイトのクローズアップ。

リアサイトは遠近二段切り替えになっている。前後二段の後方(写真でも後)のサイトを倒した状態で100m、起こした状態で200mになる。

テイクダウンした状態
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テイクダウンした状態。

グリップフレーム下部のノブを引っ張りながら回すと、レシーバーとのロックが解除される。その状態でレシーバーを右いっぱいまで回転させて前に引っ張ると、グリップフレーム(下)とレシーバーグループ(上)が分離する。

レシーバーの中にはリコイルスプリングとバッファーを収めた三段伸縮式のリコイルユニット(中)が入っている。 これは、スプリングを砂、泥、雪等の異物や、クリーニング時の乱雑な扱いから保護し、作動の信頼性を高めるための物だ。 また、内部の空気がダンパーとして働くため、約500発/分の扱いやすい連射速度に抑えられている。

このユニークなリコイルユニットはコストのかかる方式で、現在の銃器では採用例が無い。 本来ならば、リコイルユニットの前にはファイアリングピンが付いているが、無可動のための加工で取り除かれている。

レシーバー及びグリップフレーム左側面
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レシーバー及びグリップフレーム左側面。

マガジンハウジング側面のリブはMP40の初期型には無かったが、第一期改良型から強度を補うために入れられた。

写真には写っていないが、グリップフレームの上面には"MP40"、"bnz.43"、バレル下部の突起には"fxo"の刻印がある。 これにより、グリップフレームは1943年にオーストリアのシュタイア社で、 レシーバーグループはC.G.ハーネル社で製造されたものであることが分かり、シリアルもダブルナンバーとなっている。 どこかでレシーバーグループとグリップフレームの組み合わせが、他のMP40と入れ替わってしまったようだ。

レシーバー及びグリップフレーム右側面
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レシーバー及びグリップフレーム右側面。

グリップフレームはプラスチックで覆われている。グリップパネルもプラスチック製だ。 このMP40のプラスチック部分は暗い茶色だが、明るい茶色や黒い物も存在する。

レシーバー上部と前進したコッキングハンドル
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レシーバー上部と前進した状態のコッキングハンドル。MP40はオープンボルト方式でボルトとコッキングハンドルは直結しているので、射撃前はコッキングハンドルは後退した状態になる。

MP40には、トリガーの動作を阻止するようなセーフティーは備わっていない。コッキングハンドルが後退している状態では、レシーバー後部の「S」の表示があるL字型の切り欠きにコッキングハンドルを引っ掛けることで、ボルトが前進不能になりセーフティーがかかる。 コッキングハンドルが前進している状態では、伸縮式になっているコッキングハンドルを押し込むことで、レシーバー側の切り欠きにコッキングハンドルが引っ掛かり、ボルトが後退不能になりセーフティーがかかる。

MP38やMP40初期型には、ボルトを前進状態で停止させるセーフティーは無く、MP40/I登場後に順次回収されてこのセーフティーを追加する改造が行われた。

MP40の前方部分
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MP40の前方部分。

バレル下部の突起物は、戦車や装甲車のガンポート(銃眼)からマズルを突き出して射撃する際に、反動や車体の振動でマズルが車内に戻ってしまうのを防ぐために、ガンポートの縁に引っ掛けるための物だ。突起物から後方に伸びている支持台は、ガンポートとバレルが直接擦れあうのを避けるための物である。

マズル部分のクローズアップ
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マズル部分のクローズアップ。

マズルの周りには、空包を使用するためのブランクアダプターやサイレンサー等を装着するためのネジが切られている。 通常はネジ山を保護するためのマズルナット(下)を取り付けた状態で使用する。

伸ばした状態のフォールディングストック
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伸ばした状態のフォールディングストック。

ストック基部の左側がロック解除ボタンになっており、ストックを折り畳む際には、肩当部分を前に倒し、 ボタンを押しながらストックを下に回転させる。ストックは畳んだ状態でもロックされる。 また、片手だけで操作が出来ず、操作性は良いとはいえない。

このストックの方式は、戦後にソ連のAK47S等で真似されている。


出典・参考文献:
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