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白い古書、ぞっき本も、時を経て読むと面白いものです。

今月の一冊は、これ!


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「猫の館」外箱


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「猫の館」表紙


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収載カードの一枚


  
アンチック・カードの世界
猫の館
  

寺山 修司・文
 猫の手帖・編
  たざわ書房(1979年6月20日発行)

 私はとりたてて猫が好きという訳ではありません。猫よりは犬の方がずっと好きです。これは昔も今も変わりません。ならばなにゆえ、この本を買ったのか。理由は単純です。カードに写り、描かれた猫がまったくもって可愛かったからなのです。写真や絵の猫は、生身の幾倍も愛らしいとは思いませんか。

 二十数年前、私は仕事の関係で半年余り東京に住みました。日々の無聊を慰めると言う訳ではありませんが、足繁く神田・古書店街へ通いました。この本と出合ったのはその折です。九月上旬とはいえまだ暑く、少々くたびれて悠久堂書店へ入りました。「背どり男爵」を気取り、店出入り口右側の書棚上段から眺め回して、出入り口左側、最後の書棚で見つけたのがこの本です。

 背文字から猫のカード集であることは分かりました。寺山修司・文という文字が気になり、「猫か。犬なら買ってもいいのに」と思いつつ手に取りました。「正体不明の依頼主から頼まれて、わたしたちは一匹の猫をさがすことになった」で始まる巻末四頁足らずの寺山の文章を読んで、「梅図かずお」「猫は死っていた」の表記が単なる誤記ではなく、寺山が意識的に仕組んだ謎かも知れぬと考えつつ買ったのを覚えています。

 収載のカードは末次曜子という方のコレクションで、外箱に「ここに登場する猫たちは、猫好きの人たちにかわいがられながら、数十年もの歳月をすごしてきました。そして、いまわたしたちに語りかけてくれます――」と記しています。

 五十頁にも満たない本は、猫が登場する五編の詩(ボードレール「猫」、萩原朔太郎「時計」、アンドレ・スピール「春」、西条八十「猫の洋行」、アポリネール「猫」)と、寺山修司のエッセー「猫探偵としっぽのない少女が書いたライナーノート」のほかは猫のアンチック・カードで埋まっています。猫好きならぬ私にも楽しい本、猫好きの方ならもっと…。

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