根付ギャラリー 江戸時代(その他)編 
   (Netsuke Gallery)

これまでに研究した根付の一部を展示してみました。
特に記述のない場合は、材質は象牙又は黄楊となります。
サイズは長辺の長さを示しています。
時代分類の考え方は こちら

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無銘 神農(しんのう) 4.3cm 17〜18世紀 京都・大阪

神農は、二千年以上前の中国の伝説上の人物で農業と医薬の創始者と伝えられている。
三白眼の迫力のある形相、足の指の鋭い爪、木の葉を編んだ服、手に持った薬草の束を
ぐっと掴んでいるところが神農の特徴。この神農が、野山を駆け回り、次々と生えてる
薬草をかじり効能を確かめた。漢方医学の始祖であるこの神農根付は、江戸時代の薬屋の
神様として祭られ、又は携帯用の薬入れの根付として大事に使用されていたものと推測される。
今から約400年前の根付で、友忠などが活躍し、装剣奇賞が書かれた時代よりも更に
100年以上前のものだが、同種の根付の中では特に保存状態が良い。
端正な顔立ちとギリシャ彫刻を思わせる髪に魅力がある。


Netsuke, Ojime & Masatoshi's KABUKI 提物屋 2002年 掲載
藝術出版社 『美庵(Bien)』 38号、2006年5/6月 掲載

無銘 横たわる仙人と唐子 6.5cm



我楽(がらく) 玉獅子4.1cm 18世紀 大坂
装劍奇賞」掲載根付師

我楽は、「装劍奇賞」掲載の根付師で”大阪人 利助と称す、田原屋傳兵衛弟子、
器用なる彫也”と評されている。天狗の卵、兎に乗る猿、鹿、猫、獅子などの動物根付を残している。
我楽の獅子根付はこれまでのところ数点が発見されているが、いずれも迫力のある傑作である。

日本根付研究会『根付の雫』(平成18年、第56号)掲載


定由(さだよし) 虎 4.1cm 19世紀 大阪

根付師・定由については余りよく分かっていないが、力強い作風などから判断して
大阪あたりの根付師であったと思われる。同じ定由で尻尾が前足側で巻かれている
ポースの有名な虎の作品は、国際根付ソサエティ前会長のジョセフ・カースティン
(Joseph Kurstin)氏のコレクションに入っており、定由による虎はこれら2点以外には
発見されていない。
『根附の研究』には、「木刻及(び)牙刻をなす、中期始めの人なり」とある。


景利(かげとし) 鳥 4.2cm 19世紀前期 京都

本名は上嶋景利(俗称は上嶋十吉)といい、京都で活躍した人物の百科事典である
平安人物志には新町御池南に居住し、得意分野が”細奇刀”と記録されている。

平安人物志には、文政5年版(1822年)から慶応3年版(1867年)まで継続的に記録
されており、45年以上の製作期間があり、比較的長命であったことが分かる。

景利は近江百景や鳥の群れなどの細密な風景根付で有名だが、このような
柳差根付の作品は非常に珍しい。作品の裏面は細密彫刻を得意とした
景利の技術がみてとれる。

George Cohen コレクション(No.60)
("In Serch of Netsuke & Inro" 掲載)
Sotheby's, London, May 17, 2007

奉真(ほうしん) 蜃気楼(奉真彫の蛤) 4.7cm 18世紀 京都
装劍奇賞」掲載根付師

奉真は京都の根付師で、に「象牙にて蛤の内に宮殿などを彫れり」と紹介されている。
この蛤の中に風景を彫り入れる独特のスタイルは”奉真彫”と呼ばれ、奉真の名前から来ている。
この蛤は大振りで大小の紐通し穴が開けられている。
宮殿の中には人物が二人彫られており、橋の欄干や窓枠など細かい彫刻が見所である。

藝術出版社 『美庵(Bien)』 38号、2006年5/6月 掲載

奉真彫の研究については こちら 

無銘 蜃気楼(蛤) 3.9cm 18世紀 京都

海に出現する蜃気楼とは大蛤が吐く息だと言われ、その息の中に美しい竜宮城があるという。
人々は海の上にぼんやりと浮かぶ空中楼閣に、伝説として信じてきた竜宮城をみていた。
この蛤の中に風景を彫り入れる独特のスタイルは”奉真彫”と呼ばれ、”象牙にて蛤の内
に宮殿などを彫れり”と装劍奇賞で紹介されている京都派の奉真の名前から来ている。
参考までに同じ時代に京都で活躍していた岡信(おかのぶ)の蛤を横に並べてみた。


友忠 猿 3.3cm 鯨歯 (京都・大阪)

”友忠”銘の猿根付である。銘の形や紐通し穴の形状、作品の構図から
判断して、有名な18世紀の京都の同名の根付師のものとは異なるが
コンパクトな構図のなかに力強い姿が込められている。
一見したところ材料は象牙に見えるが、鯨歯を使用している。


蘭明 親子獅子 4.6cm 京都

蘭明(らんめい)は有名な京都の根付師・蘭亭(らんてい)の弟子。
構図や巻き毛の彫刻にはぎこちなさが感じられるが
仕上げが非常に美しく、表情には愛嬌がある。
裏面の美しさは必見。

蘭明は、私が最初に出会った思い出の根付の作者である。


無銘 三匹の子犬 3.3cm

三輪(みわ) 獅子舞 2.6cm 櫻木 18世紀 江戸

東京四谷の三輪在栄(みわ・ざいえい)の墓についてはこちらで紹介。

三輪は『装劍奇賞』掲載の18世紀の根付師。
上田令吉の『根附の研究』の人名録にも掲載。
丁寧な補修跡がある。


忠利(ただとし) 面根付 3.7cm 19世紀 名古屋

忠利(1780年頃〜1844)は名古屋で活躍した根付師であり、
有名な為隆を師に持つと考えられている。
銘は非常に細い刀を用いて彫刻されている。
銘の横に彫刻されている「敢擬輸工」の意味は不明であり今後の研究が待たれる。

松寿 雲上雷神 3.6cm 黄楊 柳左根付 19世紀

柳左となっている雲海の上で横になって雷神が休んでいる。
雷神の右手にはバチが握られており腹には太鼓が置かれている。
同じ松寿の柳左根付には雲上で玉を抱える狐図のものが記録されている。

レイモンドブッシェル氏の旧蔵作品


舟民(しゅうみん) 神主 4.0cm 1800年頃 江戸 櫻刻

江戸の根付師・舟民による木刻根付で、烏帽子を脱いだ神主が膝をついて休んでいる。
烏帽子の紐は前の胸のところで結ばれており、その表情は舟民独特のものとなっている
櫻の木を使用して彫られており、深緑の染角と白色の象牙により紐通し穴が補強されているが
これも舟民の特徴である。『根附の研究』には、「原氏と称し舟山(或いは二代目舟月)の門弟
にして木刻を以て仮面人物を作る、寛政頃の人なり、紐通しは多く象牙を嵌入せり」とある。

これは、ある米国人が神戸の骨董屋・播新で1930年頃に購入した根付


山鳥(さんちょう) 笛吹童子 3.5cm 18世紀

山鳥は、『根附の研究』には「木刻をなす、初期の人なり。」と記載されているが、あまり
多くの作品は残されていない。笛を吹く顔の表情と滑らかな髪の毛の彫りが特徴。


無銘 獅子舞 4.0cm 18世紀

中国風の衣服の形から中国人の芸人と思われる。
中国人が獅子頭を被ろうとしている一瞬の構図にデザインの妙がある。


石富(せきふ) 双虎 5.3cm 19世紀前期

根付師・石富については、どの根付師人名録にも掲載されておらず
ほとんど知られていない。


Netsuke, Ojime & Masatoshi's KABUKI 提物屋 2002年 掲載

長三郎 白菊矢立 7.2cm 四分一 天保年間(1830-44年) 出雲

銀製の小さな筆が格納されている矢立型の根付。 
長三郎は出雲の白銀師(しろがねし)であった。

レイモンド・ブッシェル氏の旧蔵作品
レイモンド・ブッシェル「Netsuke, Familiar & Unfamiliar」(p.232)掲載
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