石の森 第 119 号  10 11 ページ   /2004.1

 冬の瞳

奥野 祐子


今朝 窓を開けると
昨夜の天気予報のお姉さんの言葉は戯言
雨が降っていた
鉛色の空
アルミのような雨の色
銀色の鋲が 天から降ってくる
こんな日にうかつに外に出ると
たちまち 鋲で眼をブスリと刺され
きっと 何も見えなくなってしまう
身を切るような風が
私のほほを そいでゆく
雨が降る
大気に緊張が走る
木々が居住まいを正し
鳥がいつもよりはやく
空を横切り 消えてゆく
みんなみんな 自分の場所を持っていて
持ち場に向かい 全速力で 駆けて行く
木々の位置
鳥の位置
雲の位置
二〇〇三年の十二月の位置に
額縁の絵のように
全てがぴたりと収まると 
容赦なく冬が来る 
ニンゲンだけに 居場所がない
どこにもない
薄暗い家の窓から
私は震えながら
冬の瞳を ただ 見ている
雨が絶え間なく落ちてくる
銀の鋲に刺し貫かれて
貼り付けになった キリストみたいに
雨の中で
裸の枝が空に向かって
痙攣し
硬直し
降伏する


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