石の森 第 119 号  10 11 ページ   /2004.1

 雑草

奥野 祐子


物音がする
わたしのカラダの中で
下着も
皮膚も
細胞組織も貫き通した
その奥の方で
何かが わたしを食べている
かすかな かすかな
音がする
しずかに しずかに
いつのまにか
わたしが変わってゆく
たった今まで 信じていた
人や思いやルールや規範が
もう 何も 信じられない
ただ 体を丸めてひとり 
じっと じっと
何かがわたしを食べ尽くす
かすかな音をきいている
おまえは誰?
ある日突然 
荒々しい緑の手が
皮膚を突き破り 芽吹きだす
わたしの全身から生えてくる
獰猛な空き地の雑草みたいに
風をかぎわけ
光をもとめ
空に向かって もう
無我夢中で ただ
のびる のびる 手をのばす
記憶も無く 心も無く
ああ ついに 涙も優しさも忘れて
ただ 飢え渇き 
不毛の土地から
ただひたすら
水を吸うのに血眼になっているだけで 今日も
一日が終わる


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