石の森 第 119 号  10 11 ページ   /2004.1

 幽霊

美濃 千鶴


幽霊という小説を
ゼロックスでコピーして
そのコピー用紙を太陽に透かして
いきなり裏から覗いてやった
ボクらはみんな生きているが
血潮は特に流れず
ほとんどの活字が着替えを見られたダンサーのように慌ててひっくり返っても
幽霊は幽霊のままだった

霊の字の雨かんむりが
多少歪んでいるが
(正しくこの世に存在しないもの)
幽霊はさりげなく
活字の群に浮かんでいる
他に東京と山田も見つけた
幽霊と東京と山田
反転した東京に幽霊とともに取り残された山田
東京は足を上げる方向を間違え
幽霊はぼんやりと笑っている
山田の表情は見えない

本当は左右対称なんかじゃない
明朝体の幽霊の
雨かんむりのわずかな歪みを
山田は見抜けるか

陽光を反射して
コピー用紙は白く輝く
正義の場所に飾る
旗のように見える

※「手のひらを太陽に」やなせたかし作詞


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