北極亭日乗


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平成十五年三月



平成十五年三月三十日(日曜)晴

 昨夕刻より舞い始めたる名残雪、夜半一時激しくなりて今朝目覚めて見るに十数センチほどになりおりぬ。日中晴れの予報故、捨て置きたれば玄関前昼過ぎには大方解けたり。直に四月なれば雪もこれが最後か。雪掻き、雪投げから解放さるるを思うと、肩の荷ひとつ取れてやれやれの感強し。

 新年度四月も眼前に迫り来れば乱雑に散らかりおる机上を整理整頓、心機一転を目論めど果たさず。始めてより数十分、殆ど様態に変化なく、「乱雑も亦よし」と思い至りて窓辺に横になリおれば、鵯二羽餌場に飛び来たりて置きたるリンゴを啄ばみ始む。鳴き声に誘われ駆け来る猫ども窓枠に飛び乗りて鵯を眺むる姿、飽きもせで眺めおれば、やがて暫しまどろみたり。

 昨晩、城山三郎原作「気張る男」のテレビドラマ化「われ、晩節を汚さず」を観たり。明治期の関西財界の重鎮・松本重太郎を描いたるものにして、なかなかに面白し。第百三十銀行の経営破綻に際し、家屋敷は勿論私財全てを擲って責任を取りたる潔さと気骨こそ経営者の誉れなり。「悉皆出します」の無私の心無く「悉皆貰います」の経営者ばかり目に付く昨今、重太郎の生き様すこぶる清々しく、心晴れ晴れとして見終わりたり。

 イラク戦況、益々錯綜混乱、複雑化の傾向。日毎に戦死者の数増えおりぬ。米、戦争長期化の可能性を国民に訴え、短期終結の楽観論封じ込めに懸命なり。砂嵐の中、蛸壺を掘りて待ち構えるゲリラを掃討すべく歩兵部隊多数の派遣を開始、これからまた幾人の兵、民が死することか。
 本日付読売新聞朝刊二面に興味深き囲み記事ありたり。見出しに曰く「イラン都市部、CIA暗殺チーム潜入。既に複数の『標的』殺害」。記事末尾に「米英軍が、イラク軍の予想外の抵抗に遭う中、フセイン大統領本人を暗殺できないか、同チームへの圧力が日増しに高まっているという」とありたり。暗殺の考えあるなれば武力攻撃の前に何故決行せぬか。戯言になるがCIAの手に余るなればミッションインポッシブルの連中に任せるがよし。

 三十日 対イラク戦争を支持する国が六十六か国に達したとラムズフェルド米国防長官がテレビ発表。
        札幌市長選告示。無所属新人の七氏届け出。
 二十九日 コンサ対水戸戦、2−4にて敗る。二十二日、対山形戦に勝利したれども連勝ならず。通算1勝2敗。
 二十八日 我が国初の情報収集衛星打ち上げ。
 二十七日 米地上軍イラクへ十万人増派を決定。
        知事選告示。立候補者九人、史上最多。



平成十五年三月二十四日(月曜)晴

 久々に明るき知らせを聞く。第七十五回米アカデミー賞で宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」が長編アニメ映画賞を受賞せり。既に昨年、ベルリン国際映画祭グランプリをば受け、今年二月にはアニー賞四部門を獲得せし作品にてもあれば、その出来栄えの如何に優れおるかは明々白々なり。
 「乱」衣装デザイン賞のワダ・エミ、「ラストエンペラー」オリジナル作曲賞の坂本龍一らが思い浮かぶも、「羅生門」「地獄門」「宮本武蔵」の名誉賞を除き、作品賞関連部門での受賞がなかった故、殊のほか嬉しく慶賀に堪えず。
 この受賞をば祝して、女房殿に銚子一本余計に所望す。

 狸小路三丁目の松竹有楽館、今夜「たそがれ清兵衛」の上映をもって閉館せり。JRタワー・ステラプレイスに進出せしシネコンの影響大と云ふ。1910年開館とかや。
 小津、木下、山田の諸作品は封切りと同時にこの館で観たり。我にも思い出多き映画館なりき。寂しきことなり。

 土曜日より晴天続きて昨日10.5度、今日も12度となりて路面の氷少しく緩み来たれば、玄関先の氷割りをば始む。厚き所は十数センチもありてツルハシの一撃にては割れもうさず、今しばし解くるを待つのほかなし。今夜も足腰痛し。

 二十三日 要衝バスラ制圧、空爆続行。米兵十人死亡、十二人不明。イラク国営テレビ、米兵捕虜映像を放映。
 二十二日 米英軍、未明から午後にかけイラク各地で大規模空爆。
 二十一日 ブレア英首相がイラク参戦を発表。
 



   

平成十五年三月二十日(木曜)晴

 正午過ぎ、米軍イラク攻撃を開始せり。十六日のポルトガル領アゾレス諸島でのブッシュ、ブレア、アスナール三者会談後の既定の行動?
 外交的解決に最終期限を設定し、対イラク武力行使容認の新決議修正案を国連安保理の採決にかけず撤回するなどは独善に過ぎるなり。日本時間十八日午前、フセインに国外退去の最後通告をなすも拒否され、今日の攻撃となれり。
 原初に武力攻撃によるフセイン抹殺の意図ありき。憎いフセイン一人を葬るために幾人が死し、幾つの町が焼かれるか。愚かなること甚だし。自由世界の盟主たらん欲するなれば、戦を回避する手立てを模索するが責務。武力をもって屈服せしめたとて人心を自由にはできぬものを…。
 イラク攻撃を容認、米国支持を表明せし小泉政権。米の核の傘に守られおる我が国に於いては当然の事と言ふ。盟友とはいえ米国追従のみにては自主外交への道は拓けず、世界に貢献できよう筈もない。この国の政治家はグローバルな視点を欠く井の中の蛙に見えてならぬ。
 やんぬるかな。攻撃が始まってしまっては終わるを待つのほかなし。この後始末どうつけるか、各国の見る目厳し。

 春近しと言えど心楽しまず、暗澹たる気持ち晴れず。

 十九日 公職選挙法違反の罪に問われし前釧路市長・綿貫健輔被告に禁固一年、執行猶予五年の有罪判決。
 十七日 覚せい剤取締法違反等の罪に問われし道警元警部・稲葉圭昭被告、懲役十二年を求刑さる。
 十六日 厚田村沖にて三人乗りプレジャーボート転覆、一人死亡、二人重体。
 十五日 J2開幕。コンサドーレ、札幌ドームにて横浜FCと対戦するも1−3で初戦飾れず。
 十四日 中三、授業中に大麻売買の報。南区の市立中三年生二人と道立高一年生二人、計四人の男子生徒を大麻取締法違反(譲渡)で逮捕。
 



   

平成十五年三月十三日(木曜)雪後晴

 払暁、霰か霙の窓硝子に打ち付けるを聞けるうち不意に雷鳴轟きたり。これは如何にと飛び起きて窓外を見るに、静かに雪の舞い降りるのみにて別段異変無し。夜半より降りおりたれば量かなりなものと推察され、雪運びのこと考え憂鬱になりたるまま床に戻りたり。
 九時頃、小降りになりて止む兆しなればと除雪を始むるも、暫くして再度本降りとなりぬ。やむなく玄関脇に掻き集めたるまま捨て置きたれど、一時半頃には陽顔出し晴れ来る故、またまた雪捨てを始む。五日の雪運びが今冬最後と思いおりしに、何たることか。難儀なり。「今年は雪少なし」の声あれど、ドカ雪こそなかりしも降雪量例年と変わらず、帳尻は合いたる模様にて吾の難儀も変わらず例年の如し。これが最後、これが最後と己に言い聞かせつつ雪を運び、今日も二時間を要したり。


 ビル壁崩落、三人死亡。銭湯より帰りて見たる夕方のテレビニュースに驚きたり。通常にては起こり得ぬことが起きるご時世とは言え、思わず「何故に」の声を上ぐ。
 午後三時半ごろ、静岡県富士市にある旧ヤオハンビルを解体中、地上十数メートルの南側コンクリート壁が縦三メートル、横十五メトールにわたり崩落。作業員一人と信号待ちの車中の二人が死亡、他に意識不明の重体一人、重軽傷二人。

 壁は建物内側に崩し落とす予定なりしに、外側に崩れしは重心計算を誤りたるが原因とせる専門家の話あり。崩落原因はどうあれ、解体現場周囲に通行規制なく警備員の配置も手薄というは責められて然るべきなり。当然為し置くべきを為さず斯様な事態を招きたるは言語道断、企業の責任重し。近頃、不景気ゆえ利潤を上ぐるに手抜きも辞さずの企業多々見らるるは嘆かわしき限り。己の保身と蓄財に汲々とせる無責任経営者の下で黙々と汗する者こそ哀れにして悲しかり。

 十一日 札幌大学に在籍する複数の中国人留学生がススキノの風俗店に勤める不法就労が発覚。
 十日 積丹町・余別診療所の医師、覚せい剤取締法違反(使用)で逮捕、送検さる。
 九日 豊頃町の国道38号線にて十八台が絡む衝突事故、六人負傷。
 七日 黒岩重吾死す。



   

平成十五年三月七日(金曜)晴

 昨日、81年のロス疑惑・一美さん銃撃事件の三浦和義被告の裁判で、最高裁は検察側の上告を棄却せり。殺人と詐欺の罪に問われ、一審無期懲役、二審で無罪。今回、検察の異議申し立て無くば無罪確定へ。長期にわたる裁判の結果とせば、あっけなし。マスコミの過熱報道先行に押されるが如くに動き出した捜査・検察陣。確証なきも状況証拠の積み重ねで公判維持は十分可能と踏んで立件したるものか。ここに至りては検察の手詰まりは明白なり。恐らく検察は手を引くに違いなし。

 銭湯にても格好の話題となりぬ。
「最初は美談の人だったよね。涙なんか流してさ」
「そうそう、週間文春に保険金殺人をほのめかす記事が出るまでは意識不明の妻を看病し続けた夫って、美談の人だったなァ。ありゃ、確か84年の一月頃だ。わしも買って読んだわ」
「それにしてもさあ、三浦が逮捕されるまでの週刊誌、テレビの報道はすさまじかったねェ。スワッピングなんてのも飛び出しちゃって」
「それさ。お陰でマスコミ相手に起こした名誉毀損訴訟が約五百五十件、なんとその大半が勝訴だってんだから、推して知るべしだ」
「何だかんだ言っても、どだい自分の女房に一億五千万円も保険かける亭主がいるか。訳ありに決まってるよ」
「わたしゃ、のっけから怪しいと思いましたです。あののっぺりした顔付きが怪しいんですよ。それにあのサングラスでしょ。無罪なんてこたあありません」
「人相、風体で判断しちゃいかんでしょう」
「それにしても無期が一転、無罪てのは解せませんなァ」
「そりゃあんた、なんちゅうても疑わしきは罰せずですからね。状況証拠ばかしじゃ、なんでしょ。動かぬ証拠てものがないと有罪にはできませんよ。またまた冤罪てことにでもなると大変なことですから」
「状況証拠だってあれだけ揃えば、無罪てことはないと思いますがねェ」
「これが完全犯罪てものかもね」
「ほんとだったら完全犯罪だわな」
 等々。大方の意見「保険金殺人の可能性払拭できず」なり。


 立候補予定者七人の道知事選につきても談論風発したり。
 ご隠居連の候補予定者七人への下馬評を記し置きたしと聞き耳立ておりしが、各人の話錯綜して混線、ついには渾然となりて誰が誰やら判断し難くなりき。
 敢えて結論を引き出すとせば、「個性無く、迫力・気迫無く、理念無しで、皆同じ」と言うことらしし。現時点での出馬予定者は以下の七人なり。
 元北海道経済産業局長・高橋はるみ氏(49歳)、道教祖委員長・若山俊六氏(64歳)、元副知事・磯田憲一氏(58歳)、元道議会議長・酒井芳秀氏(58歳)、弁護士・伊東秀子氏(59歳)、民主党代議士・鉢呂吉雄氏(55歳)、元北海道財務局長・上野憲正氏(58歳)。

 候補七人、中に有力候補なき今回知事選に於いては法定得票数に達する者なく、再選挙の懸念もあるとて憂慮する向き少なからず。予想投票数の四分の一、約六十九万票を獲得する者なき場合は再選挙となるらん。混戦となりたれば八十万票強にても当選となるやも知れず、有権者の三分の一弱の支持にては知事の資格無しと思わる。



 

 

平成十五年三月五日(水曜)晴

 玄関脇に積み置いた三日からの雪の量殊のほか多くなりて見苦しく、折り良く朝から晴天なればと裏に運び捨つる。若き頃には一時間も要せず運びおおせたるも、動作緩慢にして筋力衰えたる今にては二時間余を要す。銭湯にて体をほぐしたりと謂えど節々痛し。この痛み、街に出歩きたるも一因ならん。この後雪降る日幾日もなかりせば、雪捨ては今日が最後と我が身に言い聞かせ、慰む。

 中食を摂りつつテレビニュースを見おれば、JRタワー・大丸のプレオープンの模様映し出さる。我が家にも入館券届きしあるとて、女房カタログと共に持ち来る。ならば出掛けにゃなるまいと野次馬根性俄かに騒ぎ出し、混雑を避けんとて三時半過ぎに出掛くる。
 既に四時を回りおりたるも館内の込みよう尋常ならず、地下食品売り場にては身動きでぬ状態なれば何も買い求むることなく、ほうほうの体にて逃げ出せり。六階にスコッチハウス出店しおれば寄りて春物のブルゾンを購い、上の階の三省堂書店を一回りして帰りぬ。筋肉痛と人込みでほとほと疲れたり。

 五日 十勝・然別演習場にて訓練中、対戦車砲実弾一発不明となる。(追記 探索の結果六日、不発弾で見つかる)
 四日 リクルート事件で江副元会長に懲役三年、執行猶予五年の判決。札幌医大の名義貸し、新たに三十人浮上。
 三日 東海村・臨界事故でJCO元所長ら六人に有罪判決。
 二日 鉢呂吉雄衆院議員、知事選出馬表明。