北極亭日乗


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平成十四年九月

平成十四年九月二十九日(日曜)曇

 朝晩の外気とみに冷たくなりたりと思へば、早九月も終わるぞや。一年の四分の三を過ごし来たりて、月日の過ぎ行く早やさに驚きおりぬ。残るは三か月、年頭に思い描いたる目標ことごとく未達成。急ぐ必要なき事は為さず、急ぐべき事もなかりせば、日々のほほんと暮らし来る結果なるらん。さすれど、無事安穏を願うても叶わぬご時世に、何事もなく過ごし来ると言うは稀なることにてあれば慶賀すべき事にてもあり。
 のんびり構え、寒くなりてようよう慌てふためきて冬支度を始むるが例年のことなれば、今年は早々に始末をつけんとぞ思ふ。まずは次の休日、家周りの枯れ草など引き抜き、網戸をば外して窓硝子拭きなどせんか。

 第十四回アジア競技大会開幕す。韓国・釜山アジアード競技場の開会式に集いたるは四十四か国・地域からの選手、役員約九千人。アフガニスタン、東チモール、パレスチナも参加せるは喜ばしきことなり。北朝鮮と韓国が和解と統一の願いを込めて合同で入場行進始むれば、観衆の拍手、歓声一際高く湧き起こりたり。競技場に満つる和やかさこそ、真に貴し。

 ベルリン・マラソン女子の部で高橋尚子選手が独走の二連覇。タイムは2時間21分49秒なりしも、走りたれば必ず勝つは驚異のことなり。アテネで再度の金メダル確実と見るが、贔屓すじの高望みならんか。更に夢見るは、世界新での金メダル。…観戦者の勝手な注文に、当人はくしゃみしおるかも知れず。

 あす、小泉改造内閣発足予定。一内閣一閣僚を標榜しおる小泉首相なれば、改造は数人の小幅なものか。小泉内閣にとりて経済立て直しが喫緊の要務なれば、注目は柳沢伯夫金融担当相の処遇。金融担当相の公的資金注入慎重論に関し与党内に反発があり、竹中平蔵経済財政担当相との意見対立を考えれば、更迭やむなしの線強し。されど後任を考ふるに適任者見当たらず。小泉さん如何に処理なすか、興味津々、注目さるる。



平成十四年九月十七日(火曜)雨後曇

 日朝首脳が初会談。成果や如何…とて固唾を呑みて見守りおりたれど、我失望せり。
 共同声明に何ら意味なく、無駄骨と思わるる。全てがうもうゆけば、世界史の一ページを画す出来事であったろうことは間違いなきこと。小泉首相にとっても外交の檜舞台に躍り出るチャンスであったこともまた然り。されど外交とは晦渋、難解、予測不能の難事。まして拉致問題解明が第一義とありては、その成否如何にしても測り難きもの。されど…
 一応の共同声明ありても、誰も成功とは思わざりき。何となれば、「北朝鮮に拉致された者のうち八人死亡、五人生存。詳細は不明」を発表せるも、声明文中に拉致に対する謝罪の文言なき故なり。信義をば重んずる国として国際社会に認知されおる国であれば、金正日総書記の口頭の謝罪も認めようが、現今の国の在り様からして、誰が信じようか。口先だけの謝罪に意味はない。拉致とは関わりのない我でさえそう思うに、被害者の肉親とあらばその憤りいかばかりか。
 「詳細は不明」とは何たることか。死亡者は皆、処刑されたと思われても致し方ない言い分ぞ。馬鹿にするなの思い強し。斯様な首脳会談をお膳立てせし外務官僚の無能さ、情け無し。国交回復程遠し。拉致問題解決への道程遠く険しきを思う。

 「道民の翼」よ、何処へ。全日空との提携によるエア・ドゥ再生案が東京地裁に提出されたり。資本金約七十二億円全額減資の内容には驚きたり。なけなしの金を叩いて買った株券は紙くず同然。わが郷土を思って投資した多くの道民、企業に何と詫びるか。財政難に喘ぐ道内自治体に出資を要請したる知事の責任も軽からず。減資後、新規に出資を募ると言うも、現状では出資する者皆無に近しと思わる。

 十五日、コンサ対ヴィッセル神戸 1−2で敗れたり。J1残留はもはや無理と落ち込みおるに、十六日またまたイバンチェビッチ監督解任の報。シーズン中に二人の監督解任とありては、尋常ならざる事態。こうなりては、勝てぬは選手の能力不足と考えざるを得ず。張外龍コーチが監督代行に就任せしも、現勢力にては勝ちは望むべくもなし。ここに到りて何を為し得るか。無責任な言い分なれど、赤字ついでに選手補強のために二十億円ほどの予算を計上しては如何か。予算を小出しにして、訳の分からぬ選手を採るよりは、オールジャパン並みの一流を呼び寄せてチームづくりをせば、先々楽しみではなかろうか。常勝コンサ実現のためには常軌を逸した経営もまた必要と思わる。



平成十四年九月十四日(土曜)晴

 夕刊一面トップ「遊漁船転覆5人不明」の報。旭川の陸上自衛隊の自衛官七人と技官三人が乗りたる遊漁船が、帰港途中のサロマ湖入り口付近にて転覆、沈没。五人救助も一人が死亡、他の五人は行方不明となりたり。いずれも救命胴衣を着用せずという。
 三連休初日、秋晴れの日に悲報を聞く肉親の胸中察するに余りあり。救命胴衣を着用せずとは、海を侮りしか。泳ぎの得手不得手は抜きにして、船釣り時の救命胴衣着用は鉄則なり。僅かな油断が招きたる惨事とも思わる。更に、遊漁船には海を知る地元漁師の船頭は乗りおらず、こもまた不幸を招きたる一因なるか。
 不明になりたる五人いずれも若き身にてあれば、その命惜しきこと限りなし。残されたる親、妻、子こそ哀れなり。合掌…

 暗き話さらにあり。さっぽろテレビ塔から工事用鉄パイプが落下、男性が死亡したり。状況からして人災の一語なり。パイプを落としたるとび職を逮捕すと言えど、何の解決にもならざりき。上から物落ちるは道理のことなれば、防御板を設置して工事を行うも道理。それをせなんだ工事会社の責任こそ、真っ先に糾弾されて然るべきにてやあらむ。

 明日は敬老の日なり。百歳以上の老人、北海道にては過去最多の七百四十七人と報じられたり。最高齢は百八歳にして矍鑠たる浜益村の後藤さん。老いの身には生きづらき世なれど、益々の長寿を願う。我も老いきたり、残りの日々幾日あるを数える身なれば、我が人生の帳尻いかにせん。
 思い悩みても妙案なかりせば、粛々とその時を待つの外なし。生きとし生けるものやがて土に帰るは決まりおる事とて、慌てもせず、恐れもせず、心静かに日を送るを望むのみ。

 そんなに急いで何処へ行く。涅槃の淵か、はたまた地獄。そうそう急ぐ用件もなきに、皆々何故に車を駆るか。年寄りはもたもたして通行の邪魔だと言う。何をぬかすかオタンチン。今ある老人の歩みが本来の「人の歩みの速度」ぞ。五感退化して時間に追わるる輩は哀れ、己の歩みの速度も忘れおる。八日現在、交通事故死三百人、全国最悪のペース。昨年より十七日遅いとは申せ、帳尻は「全国ワースト1」に終わるは必定。車を運転する人、何故に先を急ぐか。問いたし。「安全運転とは何ぞや」



   

平成十四年九月八日(日曜)晴

 昨日のコンサ対京都戦 またまたロスタイム失点にて敗れたり。フィジカル面のみならず、メンタル面での弱さをも露呈せり。情けなし。我、今季J1残留は望まぬと心に決めたり。

 札幌ドームにて六日から開催中の「北海道フェア」、今日が最終日とて女房と出掛ける。ドーム行きシャトルバスの込みようからして尋常ならず、少しく不安を覚えつつ会場へ。不安的中、その混雑ぶり凄まじ。どの店にも人だかり、行列できおりて我らの入り込む隙間なし。正午過ぎより蒸し暑くなりたるに加え、人いきれも加わりて顔面より汗噴出す。人の波一向に減り行く気配もなければ、一品の買い物もせぬまま早々に引き揚ぐ。皆々行楽代わりの見物にや。わびし。
 二百十二市町村のうち、出店したるは百八十五市町村に及びて名産品、特産品の数々あまたありて驚きぬ。普段、スーパーなどにて、これらの品を販売しおれば客集まりて、作り手、売り手共に万々歳。買い手も人波をば掻き分けずに済み申すものを…と思いつつ帰宅せり。

 名産・特産品と申せば、サッポロビールの札幌工場(東区北七条東九)が来年三月で閉鎖とあいなる由、この月初めに報じられたり。明治九年に現サッポロファクトリー(中央区北二東四)の場所にて開業してより百二十六年、全道一の全国ブランドを送り出してきた歴史も幕となる。道内生産は恵庭市の北海道工場に集約されると言うも、ビール発祥の地の工場閉鎖は淋しきことなり。来春からは街中にて、あの麦芽の香りが匂うことなしか。



 

 

平成十四年九月三日(火曜)晴

 昨日に続き今日も27.5度と暑し。昨日は滝上、興部で31.9度、旭川で31.1度を記録。今日は北見32.1度、帯広31.4度など道内二十二か所で30度を超える真夏日となりたり。この暑さ、いま少し早くに来ておればの思い強し。

 暑き日が続きたれば、銭湯も込みあいたり。常連の話題、もっぱら旭川市営温泉にても見つかりしレジオネラ菌のことなり。レジオネラと申せば、七月に発生せる日向市の温泉施設にては死者七人、感染者二百人以上になりたり。また先月、稚内の市営温泉「童夢」にても発生しおり、なかなかに怖きものなり。面々、共に齢重ねたる身なれば、感染して死ぬるが老人に多いとて、市の管理責任につき厳しき批判続出せり。その中にありて薬屋のご隠居ただ一人、「あなた、ポックリさん参りしてる方が大勢いるじゃありませんか。不自由な体で寺社参りするんならですよ、のんびり温泉に浸かってポックリ行ったほうがよかありませんかねェ。そのうちポックリ温泉が、あちこちに出来ますよ、きっと」と、のたまう。聞きいたる面々しらけ気味にて、酒屋の老社長いわく「僕はまだ若いから厭だよ。そんなこと言うのは、ご隠居ぐらいなもんだ。まったく夢もチボウもないねェ」。それぞれ「ご隠居のヘソ曲がりも困ったもんだ」と言いつつ湯船を出でたり。

 介護保険制度できたりと言えど、未だ不完全。健康保険の負担割合も増えるとあらば、ポックリ行きたしと願う者なしとは言い難し。されば、ご隠居の発言の裏に隠したる真意、辛辣にして侮り難し。
        老の身の置き所なし苫屋かな  (極亭)
 銭湯より戻りて、ビールを呑みつつ思うこと多し。