ウィーン少年合唱団プログラムB  “ World Hits ~音楽でめぐる世界旅行~”
令和8(2026)年5月30日(土)  ザ・シンフォニーホール   


   マノロ先生の芸風とイタリアの魂

 さて、マノロ・カニン先生は、3回目の来日です。日本語もある程度お上手になっておられるのでは・・・と思っていたら、オーバーアクションでカンペを見ながらのアクの強いアクセントの日本語というより、これも芸の一つというべき独特の節回しでの挨拶。これは、「ブルックナーコア」というよりも「マノロ先生のエンタメ性の強い芸風」と言うべきでしょうか。プログラム終了前の「拍手がアンコールにもつながる」というセリフも、まさにその通りですから、嫌味を感じさせませんでした。 

 ベートーヴェンの交響曲第9番より「歓喜の歌」、オルフのカンタータ「カルミナ・ブラーナ」より「おお、運命の女神よ」のような劇的で重量級の歌で始まったあとで、ロイド・ウェバーの「レクイエム」より3人のソリストによる「ピエ・イエズ」を聴くと、ソリストがどう2:1に分かれて演奏されたかを詮索するよりも、清涼感を感じたのが不思議です。ヴィクトリアの「闇となりぬ」、ロッシーニの「三つの聖歌」より<愛>といった宗教曲の後に、ヴェルディのオペラ『ナブッコ』より「行け、わが想いよ、黄金の翼に乗って」を聴くと、捕囚のユダヤ人が祖国を想うこの合唱曲をイタリア人のマノロ先生がどんな想いをもって団員に指導しているのかを考えてしまいます。現在のウィーン少年合唱団では、オーストリア人が少数派なのかもしれませんが、オーストリア支配下のイタリアで独立運動の精神的支柱となり、現在も「第二の国歌」として愛されているこの歌は、どのように指導されていたのでしょうか。

   有節歌曲を期待してはいけないのかもしれない「Moon Boat(月の舟)」  

 その後にテンプウが登場して、「はじめまして。日本人のてんぷうです。」と自己紹介し、これから演奏される曲名の紹介をしました。さて、ウィーン少年合唱団の公式発表では、歴代の入団者全体の正確な通算人数は明示されていませんが、これまでの報道や公演記録から、累計でおよそ15人〜20人前後の日本人が入団していると推計されます。その直後に聴いた今回来日組のトップソリスト マティアス君による清純なシューベルトの「アヴェ・マリア」は、旋律に添えられた祈り心が心に染みました。ところが、その後の藤倉大作曲の「Moon Boat(月の舟)」(世界初演)は、宮澤賢治や中原中也の文学作品の世界観に着想を得た曲で、少年たちの透明感のある声の魅力を引き出していると書いてありましたが、全体を覆う幻想的な雰囲気とピカピカピカという擬音だけが心に残って、一度聴いただけでは、それ以上のものを感じることができませんでした。宮沢賢治と中原中也には接点があったのだろうか、お互いの作風に影響を与え合ったのだろうかとか、これらの作家と万葉集との関連はなどと文学史的なことを考えると、この曲を本当に楽しめません。藤倉大は現代音楽の作曲家ですから、口ずさみやすい有節歌曲を期待してはいけないのかもしれません。
 その後、ヨーゼフ・シュトラウスのポルカ「上機嫌」と J.シュトラウスIIの「ワルツ「皇帝円舞曲」を聴いて、この演奏者は間違いなくウィーン少年合唱団なのだと再確認しました。これらは、その原曲の雰囲気を活かした演奏だったように感じました。

   クラシックの枠を外して

 第2部は、クラシックの枠を超えて、映画音楽、ポップス、各国の民謡、日本の歌など、文字通り音楽で世界を旅するような、エンターテインメント性に富んだプログラムです。最近の来日演奏でもその傾向は見られましたが、今年は一層それを強く感じました。しかし、コンサートのすべてをポップス系の音楽にするのではなく、「前半はカトリックの厳かな宗教曲や本格的なクラシック曲、後半はシュトラウスのワルツ、世界各国の民謡に加えてポップスや映画音楽というパターンの構成が確立されてきました。これにより、往年のクラシックファンも満足しつつ、ライト層も退屈しないというバランス感覚が生かされています。Bプロでは、特にその傾向が明らかです。ディズニー映画『アラジン』の「ホール・ニュー・ワールド」、映画『天使にラブソングを2』の「オー・ハッピー・デイ」、さらにはABBAの「マンマ・ミーア」まで飛び出しました。少年たちがリズムに乗って生き生きと歌う姿は楽しそうで、それが観客席にも伝わっていまように感じましたが、すべての観客がこういう音楽を求めて来ていたかどうかとなると何とも言えません。というのも、ウィーン少年合唱団の観客の平均年齢がかなり高いだけでなく、若者や子どもが少ないことから、これらの観客が求めている音楽はこのようなものだろうかというところに、ギャップを感じたのも事実です。

   安心して聴ける日本の歌とウィンナワルツ・ポルカ

 一方、「歌声の響」「ふるさと」「浜辺の歌」と続く日本の歌は、曲の紹介のたどたどしい日本語(これが初々しく、また、可愛くてよいのですが・・・)と違って、最近のウィーン少年合唱団は、日本語の発音も美しく自然に感じられるようになってきており、日本人団員が常にウィーン少年合唱団にいることの「よさ」を感じました。また、ヨーゼフ・シュトラウスのポルカ「休暇旅行で」の軽快さと J.シュトラウスIIのワルツ「美しく青きドナウ」の大きな盛り上がりで最後を締めくくるいつもの終わり方は、すべての観客に来てよかったという想いをもたせたことでしょう。
 
 さて、アンコールの「オー・ソレ・ミオ」「ヴォラーレ」は、マノロ先生の祖国の歌ですし、「天使にラブソング」よりメドレーも、この日のプログラムからしたら、あってもよい選曲です。しかし、カンツォーネ・ナポリターナの名曲「オー・ソレ・ミオ」はともかく、「ヴォラーレ」は、ドメニコ・モドゥニョが1958年にサンレモ音楽祭で歌って大賞を受賞した歌であり、1960年頃日本でも一時的にカンツォーネブームがあったことを知る人は少なくなってきたのかもしれないと思うようになりました。

 今年のウィーン少年合唱団公演は、最近行っていなかった北海道・東北地方の3県で公演を行ったことです。潜在的なファンは日本の各県にいると思います。近くまで来てくれたらコンサートに行こうと思っている人は各地にいると思います。ところで、どんな曲が、日本の観客に受けるのでしょう。日本では、世代ごとに「聴いて育った音楽の文化圏」がほぼ断絶しており、互換性が低いまま並列に存在していて、「世代共通の歌」が消滅し、世代によって好きな歌の傾向が断絶状態になっています。ウィーン少年合唱団に昭和歌謡を求める人はいないと思います


 ウィーン少年合唱団プログラムA “Made in Austria ~ウィーンの風にのせて~”
令和8(2026)年5月31日(日) 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール


   ウィーンにちなむ曲の軽重

   この日も、昨日に続き、ベートーヴェンの交響曲第9番より「歓喜の歌」からスタートしましたが、この日のプログラムは、間に編曲も含め新しいウィーンにちなんだ曲を交えつつも、昨日と打って変わってオーストリア・ウィーンの正統派な宮廷音楽の歴史と、彼らのルーツを詰め込んだ伝統的なプログラムでした。続いて2曲目のパーセル「来たれ汝ら芸術の子らよ」3曲目の著名なフランツ・シューベルトの兄フェルディナント・シューベルトの「レジーナ・チェリ」と聴き慣れなくとも本来のウィーン少年合唱団らしい聖歌隊的なハーモニーを楽しむ曲が続きます。それは、「アヴェ・ヴェルム・コルプス」において更なる深みにへと誘います。そうなると、続くヴェルナーの「野ばら」が、親しまれながらも、世界の音楽史においては、軽く扱われがちな曲であることに気付きます。しかし、この「野ばら」は、ウィーン少年合唱団が出演する映画『野ばら』や『青きドナウ』の入団試験曲あるいは「主題歌」としても採り上げれれ、日本では長年にわたって教科書にも掲載されてきました。ふと、藤倉大作曲の「Moon Boat(月の舟)」とどちらがウィーン少年合唱団にとって重要な作品になりえるのだろうと考えました。ドニゼッティの合唱曲の「アヴェ・マリア」は、昨日聴いたシューベルトの独唱曲「アヴェ・マリア」と対応していました。この日の演奏で注目すべき曲は、創立525周年記念としてウィーンの楽友協会で行われたコンサートのライヴ録音のCDに収められているシューベルトの「魔王」です。独唱曲を合唱曲に編曲したもので、そのような意味で聴き慣れないところはあっても、面白い試みで、プログラムのアンケートで23人中13人の団員が「好きな曲」として挙げています。この世代の少年たちを夢中にさせるものは何だろうと思いながら、耳を傾けました。独唱と違って、一人一人がが4人の声を使い分けたり、4人の役をパートにするのではなく、歌曲を原曲とする曲を合唱曲としてどう表現するのだろうということに興味をもって、観聴きすることができました。特に、子どもの「死」を表す短い時間の間のとり方が印象的でした。

    無理して歌詞の意味を考えないで聴こう

 藤倉大作曲の「Moon Boat(月の舟)」が「素晴らしかった」「大成功だった」という文をネットで読むことがあります。しかし、私は最初(昨日)この曲を聴いたとき、そのように思えませんでした。1日経ってみたら、全体を覆う幻想的な雰囲気とピカピカピカという音だけしか心に残っていませんでした。だから、この曲は、プログラムに載っている解説文を読んだり、無理して歌詞の言葉の意味を考えたりせずに、曲の全体的な雰囲気を味わえばいいと思いました。意外とその考えは正解だったかもしれません。この曲は。歌詞の意味を深く理解して味わったり、聴いた観客が帰り道で口ずさめたりすることを期待して作られた曲ではなく、コンサート会場という閉ざされた空間で、照明も含め、曲全体の雰囲気を味わう曲なのだと思えば、納得できます。
 かつて、イタリアのフェニーチェ劇場でヴェルディのオペラ『リゴレット』が初演されたとき、第3幕におけるマントヴァ公爵のアリア『女心の歌』はヴェルディ自身も自信作と考えていたらしく、その秘匿に努めた努力にもかかわらず初演終演後にはヴェネツィアの街の通行人やゴンドラの漕ぎ手の大多数がこの歌を口ずさんでいた、とも伝えられます。しかし、「Moon Boat(月の舟)」は、そのような歌い広められる曲ではなく、コンサート会場の中で、その世界観を味わう曲であることは確かです。
 クラトホヴィルの「神を喜びたたえよ」に続く、ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「オーストリアの村つばめ」は、20年ほど前に京都市少年合唱団の200人による全員合唱を聴いたことがありましたが、ウィーン少年合唱団の演奏は、23人という人数的なこともありますが、決してそのような大掛かりな曲ではなく、むしろのどかな田園風景を想起させる曲であることを感じました。それは、ツバメのさえずりをアンドリック君が水笛で表現していたことの効果も大きかったのではないでしょうか。
 「水兵のポルカ」は、ウィーン少年合唱団にとっては、むしろ最近になってよく演奏されるようになった曲ですが、この日は、プログラムに書いてあった船舶の無線電話の開始音の「パン、パン」に注目して聴くと面白いことを発見しました。

    後半では「新しいウィーンの音楽」もチラリと

 後半は、いきなりファルコ、ボランド兄弟の「ロック・ミー・アマデウス」と来ました。これは、40年前の曲だそうですが、ちょうど映画『アマデウス』が公開された頃の曲です。ここでは、変声期を迎えた15歳のテンプウくんが歌声ではなく、ボイスパーカッションを披露しました。口や喉、鼻を使ってドラムスやパーカッションなどの楽器の音を再現し、音楽のリズムを刻む技術(ボイスパーカッション 略称:ボイパ)を使って、不思議な音色を出して曲全体を支えるという役割を果たしていました。この曲の刺激が強すぎたので、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」やスコットランド民謡の「オールド・ラング・サイン(蛍の光)」の印象が薄くなってしまいました。その後に歌われるビリー・ジョエルの「ウィーン」とゴールド、ロイド、メルテンス(アルファヴィル)の「フォーエバー・ヤング」を聴くと、日本においても音楽嗜好における大きな世代間断層が見られますが、ウィーン(オーストリア)でもそのような音楽の嗜好に世代差が大きいというのは、同じなのではないかと感じさせました。確かに、最近のウィーン少年合唱団の歌声は、かつてポップスに挑み始めた20世紀末以前とは違います。しかし、あえてこういう曲を聴きたいと思って日本のウィーン少年合唱団のファンはコンサート会場に来ているだろうかとも考えました。

    日本の曲を挟んでウィンナワルツをたっぷりと

 日本の歌は「ふるさと」と「花は咲く」の2曲。毎年演奏される「ふるさと」はア・カペラで、志を果たしてで始まる3番が意志を感じさせる強めの演奏というのが定番になっているようです。「花は咲く」は、最近では、東日本大震災の直後の復興ソングとは違う意味を持つ歌のようになってきたと感じました。バイオリンのオブリガードがそう感じさせてくれたのかもしれません。オーストリア民謡の「素朴な森の若者」は、素朴な曲なだけに、むしろ、いろいろな楽器(トランペット・タンバリン・バイオリン)の演奏の方に目が向きました。
 この日は、J.シュトラウスIIのワルツは、「レモンの花咲くところ」と「美しく青きドナウ」の間に、「トリッチ・トラッチ・ポルカ」を入れるという構成で、「レモンの花咲くところ」は、かつて日本では「シトロンの花咲くところ」と紹介されていました。当時、日本では「シトロンソーダ」」という飲料も発売されていたので、シトロンとはどんな果物だろうか調べたことを思い出しました。その結果、シトロンはレモンの原種(先祖)にあたる古い品種ということで、植物としては「レモン」で、この曲では誤訳されたものが定着しかかっていたそうです。この日の演奏は、酸っぱさよりもむしろ甘さを感じる歌声で、南国への憧れを感じる演奏でした。「トリッチ・トラッチ・ポルカ」は、いわゆる「おしゃべりポルカ」。楽しい雰囲気をつくれば、それでよいのではないでしょうか。そして、最終曲の「美しく青きドナウ」へとなだれ込みます。こういう曲の構成は、「クラシック音楽としての合唱をじっくり堪能したい」「シュトラウスのワルツやポルカでウィーンの伝統的な薫りを感じたい」というクラシックファン寄りのものだったように思います。

 アンコールは、「エーデルワイス」「ウィーンわが夢の街」「ラデツキー行進曲」の3曲。「エーデルワイス」を聴くと、この時代(1960年代)のミュージカルは、最近のものと比べてのどかなものだったなと感じます。「ウィーンわが夢の街」・・・嬉しいですね。これこそ、伝統的なウィーン情緒を味わうことができました。「ラデツキー行進曲」、これまたいいですね。手を小さくたたいたり、大きくたたいたりしながら舞台と観客席が一体になれる音楽は。マノロ先生は、観客が喜ぶ「ツボ」を知っています。


その他のコンサート

オペラ(歌劇)『魔笛』『トゥーランドット』『ミランガ』『アマールと夜の訪問者』

ミュージカル(『葉っぱのフレディ』『ビリー・エリオット』『オリヴァー・ツイスト』『オリバー!』)

バーンスタイン ミサ

全国少年合唱祭(大会)(「日本の少年合唱の灯を守れ!」という人々の熱い想いで約10年間行われた全国少年合唱祭(大会)の記録)

少年少女合唱団(横須賀少年少女合唱団・守口市少年少女合唱団・大垣少年少女合唱団・全日本少年少女合唱連盟○○大会

市場誠一ピアノコンサート

秋山直輝ソロコンサート

貞松響ソロコンサート


栗原一朗ソロコンサート

小川歩夢ソロコンサート

未来和樹ライブコンサート

久保陽貴ライブコンサート

奏やんの音楽旅行

佐分利幸多ソロコンサート


童謡コンサート
まえだえいこと子供たちが歌う童謡の世界・平賀晴・平賀照 フリバLIVEコンサート)

ウィーン少年合唱団

パリ木の十字架少年合唱団

チェコ少年合唱団 ポニ・プエリ


マイキー・ロビンソン ソロコンサート

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