五銖銭(新)

 西暦7年、西漢(前漢)の実権を握った「王莽」により様々な新貨幣が発行されます。
 「王莽」は、従来の貨幣制度である「額面価値=実際の重さ」ではなく、額面と一致しない
貨幣(名目貨幣)を発行すると同時に、全ての金を国有化し、民間、諸侯が保有していた金を
没収する貨幣政策を実施し、財政再建を行いました。
 西暦9年、ついに「王莽」が自ら皇帝となり「新」を建国、西漢(前漢)は滅びます。

「新」はわずか14年間で滅び「東漢(後漢)」となりますが、そのわずかの期間に多種多様の
貨幣(王莽銭)を発行しました。王莽銭は、重量が額面に満たない名目貨幣であった為、莫大な
鋳工利益が得られましたが、私鋳、盗鋳が盛んに行われる結果となります。
 正式に「新」が成立した西暦9年、それまでの五銖銭(三官五銖銭)を廃止し、五銖銭1枚と
同額面とする貨幣(小泉直一)を鋳工します。小泉直一銭は貨泉銭と改鋳されていきます。

 この時代は、短期間で多種多様の貨幣を発行して複雑な貨幣制度とした事、額面に伴わない
名目貨幣であった為、私鋳、盗鋳が盛んに行われた事など、様々な理由で一部の貨幣以外は
ほとんど流通しなかった様です。

王莽期の貨幣発行推移状況

西漢末:西漢五銖

西暦7年:大泉五十、ケイ刀五百、一刀平五千 鋳工

西暦9年:小泉直一 鋳工
     西漢五銖、ケイ刀五百、一刀平五千 廃止

西暦10年:寶貨制の導入

西暦14年:貨布、貨泉 鋳工
      寶貨制での諸貨幣の廃止

寶貨制(五物六名二十八品)によって鋳工された貨幣

五物

六名

二十八品

材質

貨幣名

重さ

長さ、径

銭相当価値

貝相当価値

金貨(一品)

一斤

10000

銀貨(二品)

朱提銀

八両

1580

它銀

八両

1000

銭貨(泉貨)
(六品)

小銭(泉)直一

一銖

六分

1

幺銭(泉)一十

三銖

七分

10

幼銭(泉)二十

五銖

八分

20

中銭(泉)三十

七銖

九分

30

壮銭(泉)四十

九銖

一寸

40

大銭(泉)五十

十二銖

一寸二分

50

布貨(十品)

小布

十五銖

一寸五分

100

幺布

十六銖

一寸六分

200

幼布

十七銖

一寸七分

300

厚(序)布

十八銖

一寸八分

400

差布

十九銖

一寸九分

500

中布

二十銖

二寸

600

壮布

二十一銖

二寸一分

700

弟(第)布

二十二銖

二寸二分

800

次布

二十三銖

二寸三分

900

大布 二十四銖
(一両)

二寸四分

1000

亀貨(四品)

元亀

一尺二寸

2160

大貝十朋
公亀

九寸

500

壮貝十朋
候亀

七寸以上

300

幺貝十朋
子亀

五寸以上

100

小貝十朋

貝貨(五品)

大貝

四寸八分以上

216

二枚で一朋
壮貝

三寸六分以上

50

幺貝

二寸四分以上

30

小貝

一寸二分以上

10

小貝(小型)

一寸二分以下

3

  ※亀貨は民間での所持を禁じられており、占トを司る官のみで用いられた。


大泉五十(面)

大泉五十(背)

大泉五十
額面価値:西漢五銖銭換算50枚相当として鋳工

西暦14年に鋳工された貨泉と同価とされ、
西暦20年以降は流通を廃止された。

ケイ刀五百

ケイ刀五百

ケイ刀五百
額面価値:五銖銭換算500枚相当
ケイ:契の「大」字が「木」

一刀平五千(面)

一刀平五千(背)

一刀平五千
額面価値:五銖銭換算5千枚相当
(「一刀」文字は金の象嵌となっている)

國寶金匱

面(参考品)

國寶金匱
額面価値:五銖銭換算1万枚相当

諸侯による金の保有が禁じられた際に、
没収された金の代わりに与えられたもの
という説がある。
西暦7年鋳工

小泉直一(面)

小泉直一(背)

小泉直一(面)

小泉直一(背)

普通品

伝形

小泉直一
額面価値:五銖銭換算1枚相当とし、五銖銭を廃止

西暦9年鋳工

幺泉一十(面)

幺泉一十(背)

幼泉二十(面)

幼泉二十(背)

幺泉一十
額面価値:小泉直一10枚相当

幼泉二十
額面価値:小泉直一20枚相当

中泉三十(面)

中泉三十(背)

壮泉四十(面)

壮泉四十(背)

中泉三十
額面価値:小泉直一30枚相当

壮泉四十
額面価値:小泉直一40枚相当

小布一百(面)

小布一百(背)

小布一百
額面価値:小泉直一100枚相当

小布一百(小様、面)

小布一百(小様、背)

小布一百(小様)
額面価値:小泉直一100枚相当

幺布二百(面)

幺布二百(背)

幺布二百
額面価値:小泉直一200枚相当

幼布三百(面)

幼布三百(背)

幼布三百
額面価値:小泉直一300枚相当

序布四百(面)

序布四百(背)

序布四百
額面価値:小泉直一400枚相当

差布五百(面)

差布五百(背)

差布五百
額面価値:小泉直一500枚相当

中布六百(面)

中布六百(背)

中布六百
額面価値:小泉直一600枚相当

壮布七百(面)

壮布七百(背)

壮布七百
額面価値:小泉直一700枚相当

第布八百(面)

第布八百(背)

第布八百
額面価値:小泉直一800枚相当

次布九百(面)

次布九百(背)

次布九百
額面価値:小泉直一900枚相当

大布黄千(面)

大布黄千(背)

大布黄千
額面価値:小泉直一1000枚相当

西暦10年鋳工

貨泉(面)

貨泉(背)

貨泉
額面価値:大泉五十銭換算1枚相当

 貸泉には重量が2.3gから30gを超える
もの(餅貨泉)が存在し、秤量貨幣として使用
したものと考えられる。
 大泉五十銭は6年間の流通を認められた後に
廃止

貨布(面)

貨布(背)

貨布
額面価値:貨泉25枚相当

西暦14年鋳工

  

布泉(面)

布泉(背)

布泉(面)

布泉(背)

布泉

 文献上未記載であるが、出土より王莽期鋳工である事が判明。
 重量、大きさに厳密な関係をもたせた王莽期にあって、他の貨幣との関係が無い事、寶貨制の場合
「泉貨」「布貨」、後では「貨布」「貨泉」の様に「布」「泉」をそれぞれ別の貨幣形態としていた
のにも関わらず、文字が一緒に鋳出されている点、布泉の銭範は他貨幣の銭範と明らかに異なる特徴
を持っている事より、特殊な用途、目的を持って製作されたと考えられます。
 布泉は貨幣ではなく、符銭(通行証、入門証等)に用いられたとの説があります。

五銖銭(1、漢時代)に戻る

「西漢」時代の五銖銭 「東漢」時代の五銖銭 「東漢」時代末期の貨幣

<五銖銭関係>

2.「三国」時代へ 3.混乱期 4.混乱期の終焉

貝貨 秤量貨幣 銅貝 原始布、空首布 平首布 刀幣

圜銭、古圓法 半両銭