木造漁船のできるまで



 2001年の12月中旬から、祝島の船大工で四代目の新庄和幸さんが「木造漁船」を造り始め、2002年5月に完成し、船おろしをました。
 祝島でも今の漁船はFRP製のものが多く、新しい木造船を造るところを記録する機会はなかなか無いので、このホームページで完成までの経過を掲載していく事にしました。目次へ



左の写真は、船の材料の木材
九州は宮崎の「オビスギ」、通称「杉弁甲」というそうで、丸太1本分がおよそ20万円ほどするそうだ

右の写真は浜沿いにある船小屋(船を造る工場)の入口
石垣の左の小さなスペースが普段の入口で、その左の板の部分は取り外しが出来るようになっている
船を出すときにはここから出す

ちなみに祝島には船小屋が3つあり、祝島で使われている木造船のほとんどは祝島で造られたもの
新庄さんも一番忙しいときには一年に船を4隻造っていたそうだ

新庄さんの船小屋は、通称「新庄小屋」と島の人たちには呼ばれている



どこの船小屋にも左の写真のようなストーブが片隅に置かれてある
作業で出る木屑や木片を燃やしていて、寒い日などは真ん中の写真のようにストーブの周りに人が集まり、雑談にふける交流の場になる

祝島で育った男性なら、こういったストーブでイモやスルメを焼いて食べた事が一度はあるはず
年配の方によると、ストーブの中にタコを生きたまま放り込んで焼くと、とても美味しいそうだ




新庄さんが仕事の合間を縫って造った「千両船」
サイズは大きく、細工は細かいところまでいきとどいている
さすがプロの仕事

完成までおよそ一ヶ月かかったそうだ




上の写真に写っているのが祝島の木造船
波止場に繋がれているところ

最近の船はFRP製のものが多く、特に立て網や底引き網などをする人たち(若い人が多い)は、ほとんどがFRP製の船を使っている

逆に、昔から漁をしているお年寄りや、かかり釣りなどをしていてスピードの出る船が必要でない人は、木造船が多い(それでも最近はFRP製の船が増えた)

ただ、海に出た場合FRP船は波に対して小刻みに揺れ、木造船は割合ゆったりと揺れるため木造船のほうが船上作業がしやすい
また、夏などはFRP船の方が照り返しが強く、甲板の温度も上昇しやすい
そのため、遊漁のようにお客を乗せて釣るような場合は、木造船のほうが好まれる


あまり関係はないが、祝島の船はよその船と比べてきれいな船が多いとのこと
とくに祝島の木造の船はきちんと手入れがされているものが多く、漁師の船への愛情や愛着、といったものを強く感じられる


木造船とFRP製の船のそれぞれの長所と短所を
簡単にまとめてみると、こうなる


木造船
  • まめな手入れが必要だが、きちんと手入れをしてやれば20年以上持ち、見栄えもよい
  • 揺れ方がゆったりしている
  • ある程度の厚さが必要なのでどうしても重くなり、同じトン数のFRP製のものに比べてスピードが出ない
  • 処分するときや、海に沈めて漁礁にするときもFRP製に比べ楽
  
FRP船
  • 手入れが簡単で丈夫。ただし、ある程度の年月が経つとプラスチックが劣化して耐久性が落ちる。また、表面にガラス繊維が浮き出てきて見栄えも悪くなる
  • 揺れ方が多少小刻み
  • 比重自体は木よりもFRPの方が大きいが、薄く作れるために、同じトン数だと木造船よりも軽く作れる。そのためスピードもFRPの方が速い。(同じエンジンの場合)
  • 処分時は専門の業者に頼まなければならず、手間がかかる


それでは、木造船の作成風景を紹介していきます
木造船を造る工程順に並べているので、それぞれの工程をクリックしてください


目次
工程 日程
船底(せんだい) 12/22〜24
かわら焼き・曲げ 12/25・26
みょうし(船首材) 12/27
加敷(かじき) 12/28〜1/14
戸立(とだて) 1 1/15〜1/29
戸立 2
スタンポスト 1/21・22
2/22〜24
棚(たな) 1/23〜2/5
棚そろえ 1/31
フレーム 2/1〜2/4
カンパ 2/5〜6
いけま(生簀)
さぶた
2/3〜2/15
後部・覗き窓 2/16〜18
馬面(まつら) 2/19〜21
機関台 2/26〜3/1
防舷台 3/2〜5
デッキ 3/6〜17
小屋出し 3/18
ブリッジ 3/19〜23
4/19〜22
カイシング 1
カイシング 2
3/24〜30
カンパ 2 3/31〜4/2
FRP加工 4/3〜4
4/18
防舷台(プラスチック) 4/5〜6
トップレール 4/7〜9
タツ
4/10
風除け 4/11〜12
塗装(ゲルコート)
タツ(へさき)
トップレール(とも)
4/12〜13
クランウッド 4/13
コロ台
縄立て
4/14〜17
ブリッジ 4/19〜21
板張り 4/22
スタンチューブ
芯出し
4/24〜25
仕上げ 4/26〜4/30
船おろし 5/1


細かい技
打木(だき)
まきはだ打ち
側瓦(そばがわら)
板の繋ぎ合わせ法

「みちのく北方漁船博物館」というホームページの中に
詳しい説明が掲載されていますのでそちらにリンクしています
(工程の中には同時進行しているものもあるので
 日時はあくまでも目安です)






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取材・写真・文章  山戸孝 

協力    新庄和幸 
木村勉  
(敬称略)