白い古書、ぞっき本も、時を経て読むと面白いものです。 |
今月の一冊は、これ! |
「目でみる統計グラフ」の一頁。「都道府県の酒類消費ベスト10と民力」 |
発行責任者:井上 勇治 今回は「株式会社北酒連社報17号・北海道100年記念〈本道酒業界の足跡〉」です。店名や購入年月は判然としません。古書店の古雑誌の中に埋もれていたものを購入したものと思われます。先日、物置の段ボール箱に入れておいた古雑誌を廃棄しようと開けて見つけものです。入手して読みもせず、他の雑誌に紛れ込んだのでしょう。こんな本があったのか、という思いで手に取りました。 北酒連の当時の平常社報は見ておりませんが、記念号と言うだけあってペーパーバック、B5判、151ページの堂々たる社報です。購入動機はおそらく、@表紙がカラーの蝦夷古地図であったA掲載の「北海道酒こぼれ話」、更科源蔵、竹鶴政孝、河邨文一郎らの「随筆」を読もうと思ったBぱらぱらっとめくって、「新聞広告のスクラップから―世相と酒の広告―」のグラビアに興味を持った――ぐらいで、社報の目玉「本道酒業界の足跡」など眼中になかったと思います。なぜなら、目玉を読もうとして買ったのであれば段ボールの中に紛れ込むことなく「歴史資料」の一冊として書架に収まっていたはずだからです。 あとがきに次のように有ります。「昨年当社が十五周年にあたって記念号を発刊した折、来年は丁度北海道百年の輝ける年にあたるのだから、ひとつ社報北酒連もそれにあやかって本道酒業百年史をテーマに編集してみようではないかと編集委員会の方針がまとまりました」と。本道酒業史を概観した論述としては初のものではないでしょうか。これは偉業です。続けてあとがきに、「今後いつの日か、具眼の氏が本道酒業界史の大観をものにされることを切望し、その折に、本誌のこのつたない特集記事が何分のご参考になれば編集子の喜びこれに過ぎるものはありません」と記しています。別ページには「本道酒業界の足跡参考文献」として58冊の書名が挙げられています。さてその後、「ものにした」書物が出版されたかどうか私は確認しておりませんが、まとめ置く価値のあるテーマであることは言を待たぬと思います。 入手してすぐに何でこの社報を熟読しなかったのか、と後悔しても後の祭りでしょうが、今この本を前にして、「目を通していれば、古書蒐集の方向も変わっていたのでは」と思えるほどです。社報記念号にあらず、「本道酒業界百年史」の先鞭をつけた貴重な一冊、と私は位置づけます。 ☆ ☆ ☆ 《「本道酒業界の足跡」構成》 地場産業への草分け時代(開拓使時代から明治三十年まで)/地場酒造業の勃興時代(明治三十年から昭和初期まで)/自由経済時代から戦時統制時代へ(昭和初期から終戦まで)/戦後経済復興時代(終戦の混乱から洋々たる未来へ)/本道酒業界の足跡 参考文献/年表・北海道の酒業百年 現在、私の知る北海道の酒造元は、大雪の蔵(旭川・合同酒精)、男山(同・男山)、国士無双(同・高砂酒造)、北の錦(栗山・小林酒造)、金滴(新十津川・金滴酒造)、國稀(増毛・國稀酒造)、二世古(倶知安・二世古酒造)、小樽港(小樽・雪の花酒造)、寳川(同・曲イ田中酒造)、北寳(同・山二わたなべ)、千歳鶴(札幌・日本清酒)、北の譽(同・北の誉酒造)、福司(釧路・福司酒造)、北の勝(根室・碓氷勝三郎商店)、摩周(北見・山田酒造)の十五か所。ところが社報発行時の1968年(昭和43年)、北酒連と取引のあった生産者だけで何と三十四もあったと知って驚きです。また当時の札幌には千歳鶴、北の譽のほかに金富士(中川酒造、南14条西9丁目)、千代の寿(大同酒造、北3条西25丁目)があったことも分かります。 もっと遡って1913年。「大正二年九月の第三回北海道清酒品評会には道内業者の八割が参加、二百八十四点の出品であった。審査の結果、優等一点一名、一等十四点八名、二等三十点二十六名、三等六十五点四十九名、合計百十点八十四名が入賞した」とあり、一業者二点出品と仮定して百四十二、十割換算で百七十七業者です。仮に参加した業者全員が入賞(八十四名)したとしても百五業者、現在の七倍の酒造元があった計算。ちなみに、この品評会で二等までに入賞した札幌の業者は九もあります。一等に清水川、はつ緑、二等に金時、ときわ、清滝川、朝の井、住の江、勇駒、真桜となっています。 ◇……………◇ ◇……………◇ 《「北海道100年記念号」目次》 巻頭にかえて 社長・志茂慶明/偉大な北海道を築くために 北海道知事・町村金五/酒業界の雄 札幌国税局長・塚本石五郎/北海道酒こぼれ話/《北海道100年記念》本道酒業界の足跡/新聞広告スクラップから―世相と酒の広告/北海道の繁華街ところどころ―横顔とその歴史/花と酒 北酒連取締役・山田安次/随筆/北酒連の窓/当社取引生産者名簿/北酒連スタッフ/目で見る統計グラフ 《本道酒業界の足跡 参考文献》 「新撰北海道史」北海道庁/「北海道小史」高倉新一郎/「郷土の歴史」奥山亮/「北海道」北海道新聞社/「産業風土記」北海道放送/「北方のパイオニヤ」北海道放送/「風土記日本・北海道篇」/「北海道文化史考」札幌放送局/「北海道酒類情報」佐々木丁冬/「北海道酒業食品年鑑」/「日本清酒四十年史」/「北海の実業』第13巻6号/「日本の酒」坂口謹一郎/「日本酒物語」二戸優秋/「函館区史」函館区役所/「函館功労者小伝」函館市役所/「近代函館」大塚高俊/「函館商工会議所六十年史」/「函館市史資料集」/「旭川市史」旭川市役所/「上川発達史」鈴木規矩男/「旭川酒造協会史稿」/「札幌昔日譚・上」河野常吉/「札幌区史」札幌区役所「/札幌市史」札幌市役所/「観光札幌」佐野四満美/「草創時代に於ける札幌の工業」/「小樽市史」小樽市役所/「鰊場史話」越崎宗一/「小樽と酒」北海タイムス/「白方与次郎諸願書案文留」/「小樽大正実業人録」/「釧路郷土史考」釧路市役所/「釧路市史」釧路市役所/「網走市史」網走市役所/「根室郷土史」根室町/「北海道立志篇」「/北海道実業人名簿」/「佐藤直太郎郷土研究論文集」/「アイヌの研究」金田一京助/「日本産業史大系・北海道地方」/「北海道戦後史」日経新聞連載/「現代日本産業講座」有沢広己/「明治大正産業発達史」高橋亀吉/「戦後経済史」吉野俊彦/「商工政策史」通産省/「現代日本産業発達史」/「日本産業百年史」日経新聞社/「道民生活白書」北海道/「都市診断」北海道新聞社/「松前蝦夷記」/「蝦夷情実」大内清右衛門/「東遊雑記」古河古松軒/「松前下蝦夷紀行」山崎半蔵/「北海道三県巡視復命書」/「東北紀行」西岡・武市/「北海紀聞」清野謙次/「定本柳田国男集」 |
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