白い古書、ぞっき本も、時を経て読むと面白いものです。

今月の一冊は、これ!



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「雑学昭和史」表紙カバー









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「雑学昭和史」表紙









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「女給の歌」の項の一頁









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「雑学猥学」表紙カバー









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「雑学艶学」表紙カバー





雑学歌謡昭和史

著 者:西沢 爽
毎日新聞社(1980年発行)

 二千に及ぶ詞を書き、「からたち日記」「恋しているんだもん」「波止場だよお父つあん」など数々のヒット曲を作詞した西沢爽の名は知っていましたが、著作に出合ったのは1978年の『雑学猥学』が初めてでした。著者と書名に惹かれて買い、一読その博識・博学に舌を巻き、面白話の底にある資料文献渉猟の並々ならぬ広さと深さをまざまざと見せつけられた思いでした。西沢面白話が気に入って翌年7月に『雑学艶学』を、80年10月にこの『雑学歌謡昭和史』を発行と同時に買っています。その後、書店で目にすることがなかったのが原因でしょうか、以後出版されたものは手にしておりません。

 著者紹介の中に、「現在『近代日本歌謡史』『日本心中史』研究に取組んでいる」とあります。『近代日本歌謡史』は『日本近代歌謡史』となって90年11月、桜楓社から出版されました。上巻、下巻、資料編の全三冊、別冊「日本流行歌大系・略史」付き、定価82400円の大著で、どんな資料が詰まっているか考えるだけでわくわくものですが、私の懐では到底手の出ぬ一冊です。『日本心中史』の方は寡聞ながら出版を確認しておりません。

          ☆          ☆          ☆

 帯に「歌は世につれ 歴史は繰返す  昭和はじめのエロ・グロ・ナンセンス時代を、おもしろい世相・風俗・秘話をちりばめ、精細な考証で綴る歌の昭和史。昭和はじめが、なぜ今日とそっくりなのか? 歴史50年循環説を唱える新文化論。」とあり、あとがきに「歌を羅列し、社会年表みたいなものを糊と鋏で貼りつけ、あるいは他愛もないゴシップを、刺身のツマ程度に添えた歌謡史は従来いくらもあった。/だが、それらは、何年頃にこんな歌が流行したということはわかっても、いまひとつ、その背景となる世相が浮かんでこない。/世は歌につれかどうかは知らないが、歌は世につれていることは確かである。/その歌が、どうして世につれたのか、それを通俗的にできるだけ詳しく書いてみたかった」とあります。解説はこれで十分、私がとやかく言うまでもないような気がします。

 「昭和」と銘打ってはいますが、扱っているのは昭和3年から6年まで。四年間を記述するのに上下二段組み340頁余の紙幅を必要としたのは、昭和初頭の世相・風俗を「通俗的にできるだけ詳しく」「なるべく昭和初頭に出版された、いわば当時の『いま』の資料を中心にして」(「あとがき」から)書いたからでしょう。頭から読む必要はありません。目次を見て好きな項目から読むもよし、たまたま開いた頁から拾い読むもよし。どこから読んでも、「なるほど、昭和の初めって、こんなだったんだ」と頷かれることでしょう。どんな資料が散りばめられているか、その一端として「女給の歌」の項に掲載の「カフエライオン鼻つまみ番附」をどうぞ。

カフエライオン鼻つまみ番附




 
 
 








 





 
 



 


   〔 東 
大関 村松正俊 (一日に八遍も来るから)
関脇 酒井眞人(弱いくせにけんくわをするから)
小結 長岡義夫 (蛇をもつて来るから)
前頭 藤井清士(酔ふと大きな声で女給を呼ぶから
同  辻  潤(酔ふと女にだきつくから)
同  室伏高信 (小田原へ帰る時間ばかり気にするから)
同  広津和郎 (店のことを小説にかくから)
同  小野宮吉 (オパールを質に入て安マントをきて来るから)
同  大橋房子(茂索と夫婦づれで来るから)
同  松崎天民 (相も変らず偉らさうな法螺ばかり吹くから)
同  佐々木孝丸(ビールの飲逃げをするから) 
同  千田是也 (肩ばかし怒らしてゐるから)
同  鈴木傳明 (あれでも役者のつもりでゐるから)
同  宇野浩二(ハゲかくしにシャッポをとらないから)
同  フエーゲン (虫みたいな顔をしてゐるから)
同  多 忠亮 (耳が遠くて話がよくわからないから)
同  岡 康雄(女給をちつとも張らないから)
同  田中 純 (其筋の命により三行抹殺)
同  村井英夫 (酔ふと兵隊の自慢をするから)
同  金子洋文(五九郎の妾なんかと一緒になるから)
同  高橋邦太郎(シバヰの広告ばかりしてゐるから)
同  尾崎士郎(宇野千代に飲代を貰ってくるから)
同  吉井 勇(エツヘ エツヘと笑ふから)
同  ブラウデ(シヤケみたいな顔をして色男ぶるから)
同  長谷川修二 (村松みたいな馬鹿を先生と呼ぶから)
同  本城可崇 (変な出つ歯でゲラゲラ笑ふから)

   〔 西 
大関 原  貢(紅茶一パイで六時間もゐるから)
関脇 沙良峰夫(酔ふとニシン場の自慢をするから)
小結 安藤更生(変な労働服を着て来るから)
前頭 近藤柏二郎(酔ふと女給を説くから)
同  土方與志(ヅカヅカ這入つて来るから)
同  百瀬二郎(尾行にまかれて電車賃にこまるから)
同  金澤愼次郎(店の安香水を女給にやるから)
同  瀬戸英一(年甲斐もなく女給にほれてるから)
同  土方梅子(女だてらに煙草を吸ふから)
同  リントケ(女給をとりもってくれと誰にでも頼むから)
同  英百合子(猥な顔をしてゐるから)
同  佐々木茂索(口を曲げて紅茶ばかりのむから)
同  山田耕作(金もないくせに特別室へ這入るから)
同  桃村愛子(女給にバケ込んで種とりをするから)
同  久米正雄(女房を連れて女給を張りに来るから)
同  岸田國士(フランスで安物を買って来たから)
同  菅 忠雄(久米のお古を貰って嬉がってゐるから)
同  北村喜八(人生もついでに誤訳ばかりしてゐるから)
同  葉山三千子(病犬みたいにむしやむしや喰ふから))
同  伊澤蘭奢(ソバカスだらけな顔をしてゐるから)
同  堀木克三(茂索にたかってばかりゐるから)
同  東屋三郎(自慢になる面じゃないから)
同  近衛秀麿(毛虫眉毛をピリピリさせるから)
同  榊原 直(酔ふとコップを破つて弁償しないから)
同  上野虎雄(動物園の虎みたいな声を出すから)
同  菊地寛(たまに來て女給を張るから)

           (便宜上、組み方を変えていますので、本書掲載のものと体裁は異なります)

          ☆          ☆          ☆

 《目次》〈当世銀座節〉レコード会社が作る歌/西條八十の登場/銀座は九丁か/モガ・モボ時代/銀座の夜店興亡記/セイラー・ズボンに引眉毛/モダン(毛断)ガール/エロチック松屋颪/チップ二十銭じゃ惚れはせぬ/まぼろしの柳/自働車か自動車か/昭和の初めとそして今/昭和三年 この年の社会・世相のあらまし この年にはやった歌

 〈東京行進曲物語〉「映画小唄」ヒット第一号/煉瓦地の銀座/昔恋しい銀座の柳/仇な年増とは/フォックス・トロット時代/東亰か東京か 行進曲時代/二つの東京行進曲/映画・東京行進曲の珍譚/彼女の涙雨/ダンス狂時代と有閑夫人/奇々怪々の恋の丸ビル/バラはバラでなかった/恋のストップままならぬ/赤い恋/かけおち電車/馬ぐそ新宿のデパート興亡/たたかれた「東京行進曲」/昭和四年 この年の社会・世相のあらまし この年にはやった歌

 〈行進曲いろいろ〉替歌 東京行進曲/歌詞にネオン初登場/通るあの娘もまた二号/金猫と銀猫/昔お蔦のいたところ/袖すりか袖ふりか/特遊七円! 万事解決!/浅草の観音さまのナゾ/浅草オペラ/啄木のエロ日記/チャンバラとエロ・レビュー/警視総監とサトウ・ハチローの論争/昭和五年 この年の社会・世相のあらまし この年にはやった歌

 〈女給の歌〉カフェーはトンカツ食べる所/「夜の蝶」ということば/エロ・サービス時代/女給の歌/菊池寛のブンナグリ事件/女給・小夜子という女?/芸者大学カフェーに挑戦!/カフェー裏ばなし/女給艦隊出撃! 東郷元帥の令孫/昭和六年 この年の社会・世相のあらまし この年にはやった歌

 〈あとがき〉〈おもなる人名・小略〉〈おもなる引用・参考文献〉〈楽譜〉

 《他の著作》「雑学猥学」(ゆまにて出版 1978.8、文春文庫 1984.2)/「雑学艶学」(ゆまにて出版 1979.7、文春文庫 1985.2)/「雑学女学」(新門出版社 1981.8、文春文庫 1986.1)/「はやり唄の女たち」(新門出版社 1982.4)/「明治珍聞録」(大正出版 1982.12)/「雑学東京行進曲」(講談社文庫 1984.9) /「雑学艶歌の女たち」(文春文庫 1987.1) /「雑学明治珍聞録 」(文春文庫 1987.11) /「日本近代歌謡史」(桜楓社 1990.11)

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