白い古書、ぞっき本も、時を経て読むと面白いものです。

今月の一冊は、これ!



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「週刊サンケイ臨時増刊」表紙



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「同臨時増刊」口絵写真



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懐かしのブロマイド集の頁



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録音シート収納ケース



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「完本チャンバラ時代劇講座」表紙カバー




週刊サンケイ臨時増刊11/8
日本映画80周年記念号
大殺陣
チャンバラ映画特集

週刊サンケイ:編
サンケイ出版(1976年発行)

 あのチャンバラ映画はどこへ行ってしまったのでしょうか。英雄、豪傑、素浪人……主役の素性は問いません、悪人どもをバッタバッタと斬り倒し、目出度く一件落着すれば今日もお江戸は日本晴れ、背にする富士も鮮やかに我らがヒーローどこへ行く――。どきどきわくわく、手に汗握って食い入るようにスクリーンを眺めた子供の頃を思うと、私の映画好きの原点はチャンバラ映画にあると言えます。そして「チャンバラ映画こそ日本映画の原点である」と私は考えます。

 若き日、仲間内で映画の話をした時にチャンバラ映画を持ち出したところ、何を馬鹿なと失笑を買いました。チャンバラ映画のどこが悪いと反発したこともあって、それ以来“チャンバラ映画”をことさら意識するようになったのでした。この増刊号も“チャンバラ映画特集”ということで過敏に反応して買い求めたのですが、グラビアページもさることながら、「チャンバラ映画の魅力」「チャンバラ変遷史・序説」「時代劇映画・名作の系譜」を読んで大変勉強になりました。いずれも短いものですが、ポイントを押さえた記述は記憶に残っています。

 四方田犬彦氏は自著『日本映画史100年』(集英社新書、2000年発行)の中で、1971―80年の日本映画界の状況を“衰退と停滞の日々”と位置づけています。70年代はスターシステムが消滅し、スタジオシステムも衰退の一途をたどって製作本数が減り、60年代に活躍した監督でさえ映画を撮れぬ状況でした。チャンバラ映画製作など望むべくもない状況下ゆえに、チャンバラ映画を語り尽くそうと企画された一冊だったのかも知れません。

 映画特集の週刊誌増刊号にもかかわらず、この本に掲載された映画広告は東映の「やくざの墓場・くちなしの花」(監督・深作欣二、主演・渡哲也)と日活正月映画「嗚呼!!花の応援団・役者やのォー」(監督・曽根中生)の二本のみ(日活広告の下には「'76の秋を飾る日活ロマン・ポルノ7大作」のタイトルが並んでいますが)という寂しさです。

 「くだらない」と言われ続けてきたチャンバラ映画ですが、「チャンバラ時代劇とは何ぞや」の問いに真正面から取り組んだ論考は、私の知る限りこの増刊号から十年経た86年に出版された『完本チャンバラ時代劇講座』(著者・橋本治、徳間書店刊)一冊のみ。1600枚の原稿を200枚削ったそうですが、二段組み本文415ページの力作で、これが実に面白い。臨時増刊号と共に、チャンバラ映画を語るには欠かせぬ一冊だと思います。

          ☆          ☆          ☆

 巻頭を飾るカラーグラビアのタイトル「時代劇にロマンを求めて…」に続けて「チャンバラ映画。とにかく楽しかった。血湧かせ肉踊らさせてくれた、数々のスクリーンの英雄たち。彼らはブロマイドにポスターに、私たちと密着して活躍した。/その時代劇が、ほとんど製作されなくなって久しい。痛快時代劇が再び人気の出ることを願って、懐かしの名場面を見ながら、当時を思い出してみたい」とあります。178ページの約三分の二がグラビアで、懐かしの名場面(全てがそうとは思いませんが)を堪能することができます。目次を見れば分かるように、この一冊はチャンバラ時代劇の正当な評価と復権を願う映画人の熱き思いを結集して編んだ“チャンバラ映画ファンへの贈り物”です。

 写真説明には「時代劇最新作。全国農村映画協会・大映映画製作の『天保水滸伝』(山本薩夫監督)に、いま映画ファンの期待が寄せられている。対峙しているのは、平幹二郎と高橋悦史」とあります。正しい映画タイトルは「天保水滸伝 大原幽学」で、農協の原型とも言える先祖株組合を組織した幕末の農村指導者・大原幽学が長部村(現千葉県香取郡干潟町)の農民を教化し農村改革運動を指導する姿を、人口に膾炙する浪曲・講談の「天保水滸伝」に絡めて描いています。平が幽学、高橋が平手造酒を演じ、他に飯岡助五郎をハナ肇、笹川繁蔵を加藤武、娼婦の身を脱して村に戻り土に生きんとする気丈な農婦・たか役を浅丘ルリ子が演じています。

 「拙者はチャンバリスト」の中で五社英雄は書いています。「時代劇はハリウッドの西部劇と並んで、世界の映画界に誇り得る、日本独特のジャンルである。…(略)時代劇が無に近い日本映画はカタワなのだ。…(略)時代劇に特有の魅力は立ち回り、チャンバラにあるのだが、なぜかチャンバラを低俗なものと考える人が多い。…(略)しかし、チャンバラのない時代劇は水着姿でないアグネス・ラムのようなものだ。チャンバラは時代劇の生命であり、ドラマの最終の一大イベントである」と。『三匹の侍』を引っさげてテレビに登場、メジャー監督にのし上がった五社が言うのですから重みがあります。

 録音シート「五大スター名セリフ集」が綴じ込み付録になっています。内容はA面1:片岡千恵蔵「ご存知いれずみ判官」、同2:嵐寛寿郎「鞍馬天狗・角兵衛獅子の巻」、B面1:市川右太衛門「旗本退屈男・謎の蛇姫屋敷」、同2:阪東妻三郎「天狗の安」、同3:大河内伝次郎「丹下左膳余話・百万両の壺」です。聞いていると、それぞれのシーンが瞼に浮かんできます。

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 《目次》(注:頁順ではありません) 〈剣豪スター=剣戟の王者・阪東妻三郎/庶民の英雄・嵐寛寿郎/時代劇の貴公子・片岡千恵蔵/豪快な剣劇スター・市川右太衛門/型破りの快剣士・大河内伝次郎/美剣士スター・長谷川一夫〉 〈カラーグラビア=天保水滸伝/ポスターのいろいろ/派手だった広告/日本映画俳優名鑑/ファン雑誌の花盛り〉 〈成長期の活動写真〉 〈無声映画終わる〉 〈誌上名作劇場「瞼の母」〉

 〈映画の統制時代〉 〈黒澤明の世界=コマ撮り「椿三十郎」〉 〈最初のスター目玉の松ちゃん〉 〈豆プロの中のチャンバラ〉 〈エノケンのドタバタ時代劇〉 〈座談会=楽しき哉、チャンバラ映画づくり:稲垣浩、マキノ雅弘、小国英雄 司会・白井佳夫〉 〈チャンバラ映画の魅力:佐藤忠男〉 〈剣豪スターの素顔=嵐寛寿郎/市川右太衛門/片岡千恵蔵/長谷川一夫:小藤田千栄子〉 〈チャンバラ変遷史・序論:夢野京太郎〉 〈黒澤明チャンバラ、七つの功罪:亀井三郎〉

 〈戦後篇・焼跡からチャンバラ映画復権へ=座頭市/市川雷蔵ほか〉 〈残酷ものの流行で時代劇凋落〉 〈海外受賞作品〉 〈あの顔この顔 懐かしのブロマイド集〉 〈銀幕を彩った名花たち:吉田智恵男〉 〈殺陣を変えた異才・久世竜〉 〈時代劇映画・名作の系譜:滝沢一、日高真也〉 〈思い出のチャンバラ映画〉 〈拙者はチャンバリスト:五社英雄〉 〈シート解説〉 〈チャンバラ情報コーナー〉

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