放浪旅
札幌からは特急「スーパーカムイ」で一気に道央・旭川を目指す。
最近、安易にスーパー≠冠する列車が多いが、それ以上のグレードの特急が登場する際はどういう名にするのだろうか。まさかギザ≠ニか付けるわけでもないだろうが・・・
自由席はほぼ埋まっているようだった。北海道の看板特急が年末のこの時期にガラガラでは寂しいが、やはりそんなことはなかった。しばらく車窓を見た後は年賀状を書いていた。
1時間20分で旭川に到着。短い乗り換え時間の間に年賀状を投函。
ローカル線だからとか、1両しかないからといって、タカを括ってはいけない。そういうときに限って車内は大混雑なのだ。案の定、旭川発名寄行きの快速列車は立ち客も出る混雑ぶりだった。そして概ね、増結などしないのである。乗客の中にどの程度旅人がいるかわからないが、地元の人にとっては迷惑な話であろう。
それでも、途中の和寒や士別で少しずつ下車があり、名寄に着く頃にはそれほど混んではいなかった。
車窓をあまり見られなかったが、到着したのが16時30分頃だというのに外は真っ暗になっていた。
改めて、北を旅していることを実感した。
やはり、北の果てを目指す人は少ない。名寄で下車した乗客はほとんど乗り換えることなく去っていった。幌延行きの各駅停車に乗り換え、音威子府を目指す。乗客はまばらで、急にローカル線の雰囲気になった。
外はすでに日が沈み真っ暗で何も見えないのが残念だが、それでも窓ガラス越しに時折灯りがポツリポツリと見える。昼間なら外には何が見えるのだろうか。途中の豊清水駅で上り列車のすれ違いのため数分間停車。小雪の舞う外に出た。
暗闇の向こうから一つの灯りとともに対向列車がやってくるまでの間、無人のホームに佇んでいた。侘しくなるほどに静寂の世界で、この空間を体験するためにはるばる旅に出たことを思い出す。気温は何度か分からないが、長時間列車内に居たことで体は温まり寒さは感じなかった。
ところで、船に揺れた後遺症なのか分からないが、小樽から列車で北上を続けている間、ほとんど眠くならず、また、食欲もない。前日の昼・夜と食事らしい食事をせず、今日の朝に船内で弁当を食しただけである。ゆっくり食事する時間も取れていないからちょうど良いのだが。
あと10数分で今日の列車の旅は終わる。当初の予定なら、この区間は昼頃に特急に乗って快走しているはずであったが、夜も更けた中での鈍行列車の旅となった。それでも旅人である時間には変わりなく、また、おそらく特急よりも深く旅を実感していた。
17:48、定刻に音威子府に到着。ここから浜頓別まではバス旅。確か、音威子府は北海道で最も人口の少ない村と聞いたことがある。駅構内からはナイタースキー場が間近に見え、音楽もそこから聞こえてくるが、ゲレンデを遠目に見た限りでは誰も滑っている様子はなかった。
この付近は蕎麦の産地のようで、音威子府駅も駅そば店が有名だが、この時間は閉店。まだ18時前で、一応今日は平日だが・・・もっとも、宿泊地の浜頓別は食事付きだからここで蕎麦を食すつもりはなかったが。
駅は無人駅で、宗谷バスの営業窓口があるのみ。
冬の音威子府駅には何回か訪れたことがある。木で造られていて、外観のライトがどこか幻想的な、山小屋風のその駅舎は最初に訪れたときから変わっていない。夏には、美しい星空も見た。
バスが出発するまでの20分足らずの間に、いろいろなことを思い出していた。
約20年前、この音威子府から稚内まで、宗谷本線とは別ルートの鉄道があった。オホーツク海側を経由するルートで、天北線といった。バスはその天北線のルートを走るもので、約4時間かけて稚内へ向かう。今日の宿泊地は、そのほぼ中間の浜頓別。これまた何度も訪れている町だ。
バスは大型観光バスのような立派な車だが、乗客は私一人。走り出した後も、すれ違う車は少ない。途中にもちろん町はあるが、ひっそりと静まり返っている。外が暗いからなのか、時間的にはまだ19時前後だが、寝静まっているような感さえあった。
当HPのリンクにも入れているが、浜頓別という町はとても気に入っている。1000キロ離れている東京に住んでいながら、初めて訪れた1999年のはじめから数えて10年間で6回目の訪問である。冬に来るのは7年ぶり3回目。しかし1泊するのは今回が初めてである。
全国各地を旅する中で、あっという間に記憶の彼方に遠ざかってしまう町や風景もあれば、何かの度にふと思い出す町や風景とがある。なぜそうなのか、ほとんどの場合理由は分からない。なぜか、どういうわけか、思い出してしまう場所があるのだ。
浜頓別は夏と冬しか来たことはないが、その対照的な風景が記憶から消えないのである。だからこの年末年始の放浪旅を東日本一周と決めたときから、必ず通ろう、今度こそ1泊しよう、と決めていた。そのため実は、小樽までの船が遅延すると分かったとき浜頓別訪問キャンセルを最も危惧した。
音威子府駅から、宿泊地の「はまとんべつ温泉ウイング」に到着予想時間を連絡しておいたのだが、なんとバスターミナルまで車で迎えにきてくれていた。道も分かっているし、ゆっくりと歩いて行く気満々だったのだが、まるでテレビの旅行番組で目にするような暖かい好意に甘えることにした。
日帰り入浴客の帰った温泉で存分に寛ぎ、腹いっぱいの食事を頂いて(食欲がなかったのが嘘のように大食した)、1日前とは正反対の快適な一夜を過ごして旅の2日目が終わった。
・・・宣伝目的ではないが、「はまとんべつ温泉ウイング」はお勧めの宿である。