史上最低の奇行文
〜其の六 厳冬の道東一周 の巻〜
第1編 釧路で拝む初日の出
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放浪旅
VOL.6
厳冬の
道東一周
(第1編)
下関から日本海を北上した2年前。東京から四国を経て九州の端を目指した1年前。
過去の年越し旅に比べると地味かもしれないが、今回は冬の北海道を徘徊する旅に出た。
毎年、年越しの瞬間は動いて≠「る。
そのことに特別な意味はないのだが、
ほとんどの人々が静かに新しい年の瞬間を迎えることを思うと、旅の中にいることが無性に楽しくなる。
今年は、札幌から釧路を目指す夜行特急
「まりも」で道東を目指す。
何度も乗ったことのある列車だが、年越しの瞬間に乗るのは初めてのこと。
4年前、やはり北海道で新年を迎えたときは網走行きの「オホーツク」だった。
一瞬、そのことを思い出しながら乗る。
昔に比べて、夜行列車での寝つきがすこぶる良くなった。23時過ぎに札幌を出た列車は、南千歳と追分の間で午前0時を迎えるが、その瞬間は眠りについていた。目覚めたのは終点の釧路まであと数十分という頃。いつもの朝と何も変わらず、呆気なく新しい年になっていた。
初日の出を見るために道東を選んだわけでもないのだが、たとえ厳しい寒さでも紺青の空が見る見るうちに紅く染まっていく様は、見ていて清々しい。残念ながら地平線や水平線でそれを見ることは叶わなかったが、朝6時前に着いた釧路では、夜明け特有のグラデーションの空を見ることができた。
空気はまさに凍るほどの冷たさを感じたが、それでもこの色彩は見ていて飽きが来ない。
元旦は、釧路町の尻羽(シレパ)岬を目指す。最寄の根室本線尾幌駅からおよそ16キロ。交通機関は何もなく、ただ歩くのみ。
昨年W杯後に引退した中田英寿氏は「走らなければサッカーは始まらない」と言っていたが、旅乞食は「歩かなければ旅は始まらない」と思っている。
初日の出を拝んだ車窓に別れを告げ、尾幌駅に降り立つ。
ホーム一面とコンテナ車を改造した待合室のみの無人駅。
さぁ、2007年の旅の始まりだ!
実は、結論から言うと、思わぬ結末が待ち受けており、尻羽岬へはたどり着けなかった。不完全燃焼だったわけだが、その道のりはなかなか起伏に富んで楽しいものだった。
前半は道東らしい、真っ直ぐで平坦な道。晴れ渡っていて寒いものの、耐えられないほどの厳しさではない。さすがに牧場の脇を通った際はかなり牛糞臭かったが、空気も澄んでいて心地良かった。
この地域、この時期はほとんど氷点下だと思うが、県道だけあってしっかり除雪されていた。ただひたすら、岬を目指して歩いた。
尻羽岬への16キロの中間地点よりやや手前、視界に厚岸湾が広がる。牡蠣や帆立貝の養殖で有名なだけあって小さな漁港もあったが、元旦のため休業か。湾だけに波は穏やか。付近の集落も、どこかの飼い犬がギャンギャン吠える声が聞こえるだけだった。去年、坊ノ岬を目指したときも、すごい勢いで犬に吠えられたことがあった。どうも犬には嫌われているらしい。
漁村を過ぎると、途端にアップダウンの激しい道となる。通る前は全面凍結の悪路であることも覚悟していたが凍結はそれほどでもなく、それよりも、長く続く上り坂がこたえた。
たまに車が通るくらいで、歩行者は全くいない。道の両側はほとんど森林で、除雪されていない林道を見るかぎり、積雪の量はなかなか多い。歩道にはシカのものと思われる足跡をよく見かけた。
自分の足音だけしか聞こえない、無音≠ネ世界が続いた。時間に追われる普段の生活とのギャップの大きいのが良い。一歩や二歩で目の前の景色が急変するわけでもないが、それが歩く旅の醍醐味。
当然、退屈などすることなくいつの間にか時が流れ、出発から約2時間半で尻羽岬の手前まで着いた。1キロを 12〜13分のペースで来たことになる。靴が合わないためか、かなり足が痛い。
左の画像の建物は、平屋建ての小学校。もちろん小学生の姿は見えなかったが、このような地にも生活の姿があることを実感した。また民家の犬に吠えられつつ、目指すは地の果て、尻羽岬。ところが・・・
行く手を阻んだのは雪だった。当然のことながら、人が住んでいる地域だからこそ除雪するのであって、そこに人がいなければ、あるいは人が行かない場所≠ネらば除雪は必要ない。
上の画像のとおり、綺麗に積もったままの雪道は、ここから先に生活の姿がないことをとても分かりやすく物語っていた。4年前のこの時期に訪ねた同じ道東の落石岬にはない光景だった。
数メートル歩く。膝の上までの深さの雪。残り5キロ少々。後で後悔することは分かりきっているが・・・
2回目の探訪を心に誓い、雪道に背を向けた。(下の画像は、岬とは異なる方向にある集落)