放浪旅
この地域の難読地名
天候も悪く、道も単調。そんなときに励みになるのが目的地までの道標である。よほどあぜが強い地域なのか、斜めになっていたが残り2キロを切ったようだ。少し前に自分を追い越して行ったバイクが砂埃だけを残してすれ違って行った。
急坂もなく緩いアップダウンを繰り返しながらの砂利道。骨だけになった鳥の死骸があったりして、なかなか探検者気分に溢れたが、幸いというべきか、霧も今以上には濃くならず、雨足は強まらず小雨のままであった。
尾幌駅出発時からは想像もつかない天候の変化で、モチベーションも下がる。岬到達が目的なので天候の悪化くらいで甘いものだが、晴天の下で大海原を眼前に佇むというのが岬探訪の理想形である。
岬への分岐道にたどり着き(漁港のあたりからここまでが異様に長く感じた)、霧が濃くなるにつれて体感でも分かるようになった小雨を受けながら、前回進行を断念した場所までたどり着いた。
岬まではあと4キロ余りあるはずだが、さすがにこの場所まで来ると感慨深い。季節は真逆だが、数件の民家、小さな郵便ポスト、平屋建ての小学校、全く変わらない風景であった。ただ、当時吠えていた犬の姿はない。
前回は雪が自分を阻んだように、今回は霧が行く手を遮っているような気がした。右の画像のとおりの霧の世界で、10数メートル先も視界が利かない。歩いていてこれほどつまらないことはない。
先のことは分からないが、天候が回復するような期待さえ抱けないくらいに空も暗く、霧雨も絶え間なく降り続いている。おそらく岬もこんな具合であろう。
しかも、この辺りから舗装されていない砂利道になって歩きづらくなった。冬に除雪されていなかったわけだから、人は住んでいないのだろう。鳥の鳴き声だけが唯一の音。下ったり上ったりしながら岬を目指す。
60箇所くらいの岬に行っているので、観光地にもなるようなメジャーな岬から、辛うじて地図に載っている程度で誰も来ないであろうと思われるような岬まで多種多様ということが分かっているが、尻羽岬は間違いなく後者に近いだろう。
岬は陸地の果て、突端なわけだから、たいていは辺鄙な場所にあるのだが、歩けども歩けどもたどり着かない尻羽岬は観光地としては向かないであろう。もちろん、旅乞食のような変人にとっては、このような岬のほうが岬っぽさを実感でき好ましい。
尾幌駅を出発して3時間も経つとさすがに足が疲労してきたが、少しでも天候の悪くならないうちに岬までたどり着かねば、という気持ちで歩いている。それくらい、好天になる望みはない空模様だった。皮肉にも、岬に近づいていることを知らせるように、さらに霧は濃くなってきた。
ふと、ここで道に迷っても、誰にも発見されないまま途方もなく時間が経過するだろうなと思った。そういう意味では、雪に阻まれた3年前と状況は同じかも知れない。ただし、3年前は胸の高さくらいの雪をかき分けながら進まなければならなかったが。
砂利道の果ては、駐車場のようなスペースでその一角にトイレがあった。一応、観光客を想定はしているようだが、売店等はなし。下の画像のとおり、そこから先は草むらの中を進むことになる。先ほどすれ違ったバイクは時間から見てここから先へは行っていないであろう。この場所からも、岬であることを示すような物は何も見えない。
草むらの中でも、人が歩いたような跡はあるので、訪れる人はそれなりにいるようだ。しかし今日に限っては、この先も人はいそうにない。あたり一面に霧が立ち込めていて、行く手の視界はとても悪い。何だかあの世≠フような雰囲気である。
あの世≠ノ行ったことはないので喩えるのは変だが、音のない世界が、そういうものを連想させるのだろう。風で草が擦れ合う音が、音といえば音か。波の音が聞こえてもよさそうなものだが、それもない。ということは、まだまだ先なのか。
それにしても神秘的というか、今までの岬探訪では見たことのないような風景が眼前に広がっている。斜めに立っている木は強風によるものだと思うが、ところどころに気まぐれのように木が立っているのも妙である。
霧で視界が遮られているせいもあるのだろうが、ひたすら歩いても岬らしきものが見えない。何か建っていると思ったら遭難者の慰霊碑だった。他に進めそうな道はないので、コースを誤っていることはなさそうだが・・・。
そして、ようやく視界の先に一つの看板らしきものが見えた。
3年越しでようやくたどり着いた尻羽岬。が、何か腑に落ちないものだけが残った。周辺を少し歩いてようやく断崖の上に着き微かな波音を聞いたが、進んできた道の先はまだ草原が続いているのである。しかも、霧に隠された草原には人の歩いた形跡はない。少し進んでみるが、振り返ってみると自分の歩いてきた道がどれか、分からない。晴れていれば、空も海もはっきり見えるのであろう。また来いということか。きっと1回や2回の来訪者には見せたくないくらいの風景があるのだろう。
360度の霧の世界の中に一人佇み、やがて来た道を尾幌駅に向かって引き返した。