VOL.1
サロベツ原野
VOL.2
室戸岬登山
VOL.3
日本海ヲ北上ス
(第1編)
(第2編)
(第3編)
VOL.4
津軽海峡
梅雨景色
VOL.5
まわり道
最果て行
(第1編)
(第2編)
(第3編)
VOL.6
厳冬の
道東一周
(第1編)
(第2編)
VOL.7
S字曲線で
離島の岬へ
(第1編)
(第2編)
VOL.8
目指せ!
本州最西端
VOL.9
日本半周
一筆書きの旅
(第1編)
放浪旅
(第2編)
(第3編)
VOL.10
続・日本半周
一筆書きの旅
(第1編)
(第2編)
(第3編)
VOL.11
リベンジ!
尻羽岬
VOL.12
前人未踏?!
本州一周の旅
(第1編)
(第2編)
(第3編)
VOL.13
東京発、
最西端経由
最東端行き
(第1編)
(第2編)
車内ではトワイライトエクスプレス関連グッズを売る車内販売が何往復もしている。個室車両なので元気に声を張り上げているが「ご好評頂いております・・・」というのは止めたほうがいいと思った。好評なら短時間で何往復もするまい。

金沢では3分の停車時間にホームへ降り、列車の先頭を目指して走り、機関車を撮った。まさに童心に返ったひと時。新大阪から南千歳までの間、意外にも長時間停車はなく、停車中に撮れる機会がないのだ。

金沢を過ぎ、富山県に入ると立山連峰が迫ってきた。この時期は悪天候で日本海に沈む夕日を見られるチャンスは少ないだろうが、雪を被った立山連峰が夕日に照らされている美しい風景を見られるのは、この季節ならではであろう。
灰色の雲が空を覆いはじめてきて、夕暮れの風景は列車の背後に消えて行った。新大阪出発から5時間、車窓は灰色の雲、白い雪、その合間にポツポツと灯る明かりに占められていった。

建設中の北陸新幹線の橋脚が見え隠れし、新潟県との県境に近付く頃になると、灰色と白の間に、やや空の色に近い海が現れる。背後にはまだうっすらと夕日の暮色。別の季節にも乗ってみたいものだ。

上りと下りの違いはあるが、夜の日本海の波飛沫はちょうど1年前の年越しでも「きたぐに」の車窓から見たことを思い出した。あれから1年。またしても時の流れの早さをしみじみと実感してしまった。
長いトンネルを抜けたところで、ふいに高速道路が現れて、海と列車を遮断する。親不知のあたりか。波飛沫は雪と同じくらい白く、そして高い。まだ波の高さが見える程度の暗さだが、ほどなく窓ガラスに顔を押し付けなければ見えないくらいに空は暗くなる。

個室寝台のメリットで、好き勝手にライトを点けたり消したりできるので、外が暗くなってくるとライトを消して窓の外に目を凝らす。海が遠ざかり、家々の灯りが列車に近付いてくる車窓になる糸魚川のあたりでは外は真っ暗になった。まだ17:30だが。
この列車は沿線案内が多く、豆知識を与えてくれる意外性があった。糸魚川〜直江津は30キロ程度で、そのうちの23キロ相当がトンネルなんだそうだ。そんなこと知ってどうすると問われたら、別に・・・と答えるしかないのだが、さすがにこうもトンネルが続くと眠くもなってくる。
長いトンネルを抜けた。眼前は明らかに海だが、そのはるか向こうにいくつかの大きな光。沖合い何キロくらいなのかも想像つかないが、大晦日の夜も漁だろうか。海が見えなくなったら今度は民家が増える、もうすぐ直江津なのであろう。家も灯りの灯っている家もあり真っ暗な家もあり様々である。

外が暗いので、今どこを走っているのか分からないのが辛い(IPhoneのマップもいまいち感度がよろしくない)が、“海の駅”青海川を通過する際は気付いた。車窓から見える断崖の上にホテルのような建物が見えたからである。窓の外に目を凝らした。黒い海に白い波、やはり夜の海は不気味だ。

柏崎を過ぎるとしばらく内陸に入るが、列車にパラパラと何かが当たるような音がする。霙か何かだろうか、窓ガラスは全く濡れたりしていない。路面は濡れていて、外灯に照らされた道路の両端には除雪された雪が山を作っていた。

辺り一面に雪原が広がっている車窓。おそらく春から秋までは水田であろう。やがて列車は新津に到着。広い駅構内にわずかな灯り。何とも侘しい光景だ。新津の次は停車駅は北海道の洞爺とのこと、このダイナミックな感じもトワイライトエクスプレスならではである。

21時ちょっと前まで、車窓にはぜひ昼間通りたい景勝地の“笹川流れ”が展開していた。まつ毛が窓ガラスに触れるくらい押し付けて一部始終を凝視。ひしめき合う民家、月明かりに照らされた海、砕け散る白い波飛沫、はるか彼方の漁火・・・やはり旅は最高だ!

ところで、車内のシャワールームは時間帯予約制になっていて、たまたま空いていた21:00〜21:30だったのだが、夜の笹川流れを見た後だったので、タイミングが良かった。シャワーは6分間しか出ないが、意外に6分間とは長いものだと思った(決して洗っていないわけではない)。

乗車時間の半分にあたる10時間半が過ぎた頃、当然のごとく睡魔に襲われた。うたた寝を繰り返していたが肝心の1月1日0:00の瞬間は寝ていた。次に目覚めたときは0:05。直前に秋田駅を通過していたときは起きていたのだが、あっさり新年を迎えてしまった。ちなみに秋田県での新年は初。

その後は不思議なものでなかなか眠くならなかったのだが、五能線のレールが交わる東能代駅(通過)を過ぎた辺りで眠ることにした。個室の上半分がベッド仕様になっている。眠りについた後は、途中目覚めた記憶もなく朝を迎えた。青函トンネル前後も全く記憶になかった。
トワイライトエクスプレスでの年越し、元旦の朝。しかし、早朝に終点に着く寝台列車ならいざ知らず、朝の6時20分に車内放送で目覚めるとは思わなかった。寝付いてからこの時間まで目覚めないのも不思議だが。

もう少し寝ていたかったが、車掌の新年の挨拶に続いて食堂車の朝の営業開始まで大音量でアナウンスされて、眠気が覚めた。

しかも、トイレに行ったときにまたしてもドアの内鍵がかかってしまい、何両も先まで歩いて車掌を呼びに行く羽目になり(浴衣のまま)、散々な年明けとなってしまった。窓の外には美しい朝焼けが広がっていて少し癒された。
新年最初の停車駅、洞爺に着く頃には有珠山や昭和新山も綺麗に望むことができ、美しい日の出も拝めた。快晴とはいかないまでも、そこそこの天気だ。

北海道なので当たり前だが、一面の銀世界である。しばらく海沿いを走るが、この区間は内海のためか波も穏やかであった。朝は前日に買っておいた弁当を食した。

一度の旅で本州、四国、九州、北海道を同時に踏破するのは初めてである。列車内にいるので気付かなかったが、歴史的(?)瞬間を迎えていたのだった。
例年の年越しは大晦日の夜遅くに列車(船のときもあった)に乗り、元旦の早朝に下車というパターンがほとんどだったので、朝の9時過ぎまで列車内にいるのは少し違和感があった。ぼんやりと車窓を眺めながら、今年はどんな1年になるのかなどと他愛もないことに思いを巡らせた。
過ぎてみると21時間なんてあっという間なもので、ほぼ定刻に南千歳到着。粉雪の舞う寒いホームに降り立って、札幌へと急ぐ列車を見送った。予期せぬトラブルはあったものの、日本一の豪華列車にふさわしい汽車旅で、この12年間で最も印象深い年越し列車であった。
列車の姿が見えなくなってから、乗り換えに急いだ。本土最東端を目指して・・・。
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